SONYのPAスピーカについて思うこと

劇場・ホールのスピーカは、常設のものと持ち込まれるものに大別される。
この二つは、全く異なる目的で使用される。
持ち込まれるスピーカは、劇場・ホールで催される公演と一緒にやってくる。コンサートが主なもので、大音量を要求され、ポップスやロックの音楽に適したチューニングが施される。
一口に大音量と言っても、客席最後列で120dBを要求される、と言ったら御理解頂けるだろうか。
物凄い音量になる。

ポップスやロックの音楽に適したチューニングというのは、例えば高域ならキーボード等電子楽器の高音が余すところ無く再現され、低域はキックの音が歯切れよく、こもらず、迫力を持って飛んでくるように、ということである。例えの言葉が足りないかもしれないが、あくまでも一例である。

これらの公演は、スピーカがお客様の目に留まることを前提にセッティングされる。
一方、常設のスピーカというのは、どこにフォーカスを合わせるべきだろうか。

1・お客様の目にスピーカが意識されたくないジャンルの公演
2・
予算の関係で、スピーカを持ってこれない公演

特に2の問題は切実である。バブルの頃、メセナと称して各種公演に協賛金を積んだのが今から思い返せば、「強者共が夢の後」といった感がある。その協賛の対象も、真に舞台表現の世界を黒子として支えようといったものではなく、宣伝の一環というスタンスから成長できなかったのだが、ここではその問題について論ずる項ではないので、ここでやめておく。とまれ、梯子をかけられて登ったら梯子を外された格好の舞台関係者は悲惨だ。
こういう時こそ自治体の公共ホールが力になるべき時だろう。企業の態度が景気の変化に合わせて猫の目のように変わるのは、考えてみれば当然のことである。企業というものは本来そういうものである。

持ち込みたい公演は、自由に持ち込んで貰う。そのための設備(電源、回線など)は万端に整える。
その上で、持ち込まないお客様のために、公共ホールの設備は、必要最小限のものを、ではなく、必要最大限のものを用意する必要がある。
1の、お客様の目にスピーカが意識されたくないジャンルの公演とは、芝居やオペラなど、お客様をフィクションの世界に誘う、照明と舞台美術によってストーリー上の世界観が視覚的に構築され提示される公演である。
スピーカ丸見えでは台無しになる。スピーカは壁の中に埋め込まれて隠れていなければならない。
もう一つ、この手のジャンルのスピーカに求められる特徴として、「解像度」がある。
音圧はそんなに求められない。第一、客席最後列で120dBなんて最早暴力だ。お客様の健康を害する音量を出しております、と、チケット購入時にアナウンスすべきだ。

お客様は、
a スピーカから出る音
b 舞台上の生の音
c aとbが空間で響いた音
このabcの3要素が相まって、耳に飛び込んでくる音を聞いているのである。

音響の仕事はスピーカの音を聞かせることではない。

このabcをどうブレンドしてお客様に届けるか。
音響は「音のブレンダー」なのである。
そうすると、常設スピーカに求められるものは「音量」でも「飛びの良さ」でもなく、「解像度」ということになる。これは、そのホールで催される公演が、よりアコースティックの傾向になる程、それが求められる。(誤解の無いように追記するが、音量が出なくていい、音が飛ばなくていい、と断定しているわけではないので。念のため)

じゃあ、モニタースピーカでも埋め込んでおいたらどぉ?と言われそうだが、実はウィーンのシュターツオパーは、以前はJBLのスタジオモニタースピーカ4344を、両サイドカラムにズラーッと並べて使用していたのである。

現在は、d&bが採用されている。これは、私が知るかぎり、PAジャンルのスピーカの中で、最もアコースティックな響きを持つ、解像度の大変高いスピーカである。
そして今回、そのd&bの更に上を行くと予想されるスピーカを聞かせて頂いた。
長い長い長〜い前置きですいません。それが今回の、SONY SRP-S5000です。

ソニーのPAスピーカは、どうも、不当に評価されているように感じる。
それは、同じくソニーのスタジオモニタースピーカにも言えることである。
それは、私達の、スピーカの試聴のスタンスに関係があるように思う。
よく私達は、「○○のスピーカはいいよね」「△△のスピーカはこんな鳴り方をするよ」
といった言い回しをする。

音楽や音ではなく、スピーカのキャラクターを聞き分けようという耳になって聴いている。
その耳で、ソニーのスタジオ用モニタースピーカを聴くと、どうも何だか物足りない。
いい音だ、ということは分かる。とてもナチュラルで、入力ソースを忠実に再現するのだが、この物足りなさは何だろう。ソニーのスピーカとしてのカラーが見えてこない。やっぱりこの辺が、ソニーのモニタースピーカがパッとしない、あまりメジャーでない所以なんだろうか。

そんなことを考えながら、自分が普段最も耳に馴染んでいる入力ソースに何気なく切り替えてみる。
(今回、私の場合は、チェロのソロのCDでした)

再生が始まった、途端、「え!?えええぇ!?」
それは、驚きの体験だった。
そこには、スピーカの姿が消えていき、音楽だけが、そこに「或る」空間。
私はしばし浸り、それから猛然と、改めていろんなジャンルのソースを聞き直した。
そうか。そういうことか。

このスピーカは、キャラクターを主張しない。スピーカの存在を主張しない。
音が鳴り始めた途端、スピーカは音の向こうに姿を消す。
そして、音楽だけが、そこに或る。
キャラクターを持たない。それがソニーのスピーカのキャラクターなんだ、と私は感じた。

試聴後、開発担当者の冨宅さんと、親しく懇談させて頂く時間を得た。
ソニーは現在、完成品としての大型スタジオモニターの販売はしていない。ユニットの生産だけをしていて、受注によってエンクロージャからカスタムメイドしていく。ソニーとして、納得と責任のいくモニタースピーカの販売は、これしかできないとのこと。

ただ、勿論ユニットのみの購入は可能で、この場合、「TADがお好きな方はSONYのは嫌う。TADがダメな人は迷わずSONYを選ぶ」そうだ。大変分かりやすい話である。
いずれにせよ、SONYのモニタースピーカはもっと評価されるべきだろう。このスピーカは、つまんない音はちゃんとつまんなく鳴らし、悪い音はきちんとその通りに悪く再現する。
スピーカの音と対峙せずに、その音そのものと向かい合って仕事が出来る。
これが良いモニタースピーカでなくて何であろうか。

という訳で、やっとSONYのPAスピーカ、SONY SRP-S5000に話がたどり着く。
SONY SRP-S5000は、前述の、ソニーの大型スタジオモニタースピーカのユニットを、そのまま使用している。
PAスピーカでアルニコのユニットを搭載しているなんて、これくらいのもんじゃないだろうか。
エンクロージャこそPA仕様になっているが、設計コンセプトはそのまんま、「PAにスタジオモニターの音質を」ということだ。

これは、ウィーンのシュターツオパーの、JBL4344からd&bのラインに通ずる。
よく、解像度の高さを売りにするPAスピーカに対して、「音の飛びが感じられない」「エネルギー感、迫力が足りない」という声を聞く。しかし、音の飛び、ということに対し、どうも私のスタンスは、そういう方々とは違うようだ。(単に私の考え違い、勉強不足かもしれませんが)

3階席に届くくらいの音量を出せば、普通はスピーカの前に座っているお客様はうるさく感じる。
しかしSONY SRP-S5000は、近距離と遠距離の音量差を、極力少なくしている。そのため、他のメーカーのスピーカに比べて、スピーカの真ん前で音を聴いてもつらくない。これは図らずも、このレポートの最初の方で私が書いた、PAスピーカの条件の一つである「音の飛びの良さ」につながるということになる。

「音の飛びが良い」と感じさせる為に、特定の周波数を強調した音質のPAスピーカが多い中、これは貴重だ。PAスピーカと反対の開発アプローチの結果、PAスピーカに必要な条件を得たということだ。

また、音そのものがそこにあるような解像度のスピーカであれば、先に私が述べた、
a スピーカから出る音
b 舞台上の生の音
c aとbが空間で響いた音
のうち、aの、スピーカから出た音、というのが、bと同じく、舞台上の音源の一つ、という捉え方をすることも出来るようになる。これはPAとしてはスゴイことだ。
勿論、スタジオで求められているような解像度のスピーカを、残響時間の長い「ホールは響きの楽器である」と言われるようなところへそのまま持ち込んで、果たしてどこまで有効なのか、ということについては、私の今回のこのレポートでは、次回のレポートへの宿題、とさせて頂きたい。
SONY SRP-S5000は既に、加山雄三さんや森山良子さんのコンサートにて使用され、何より出演者からの絶大な支持を受けているそうである。だからと言ってこのレポートでそれをそのまま受け売りにしてレポートの体裁だけ整えるわけにはいかない。あくまでも自分で実際に現場にて使用した様子のみをレポートにしなくてはレポートの価値がない。だから今回のこのレポートは言わば「予告編」である。

今年度中には、現場レポートをお送り出来ることと思うが、いずれにせよ、大変楽しみな、見逃してはならない製品だということは皆様にお伝えしたかった。


SONYのスピーカのレポートについては、SONYの和路さん、冨宅さんの御厚意によって実現いたしました。
どうも有り難うございました。
尚、このレポートは1999年4月のアップであり、予告無く不定期に改訂・加筆される可能性があることを御了承下さいませ。

 

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