銘機の美しさ・ミニナグラ(NAGRA SNN)


 私が現在、プロサウンド誌で連載している「音空の扉」の、09年8月号と10月号のゲストに、映画音響の瀬川徹夫さんにゲストにおいでいただきました。
その時瀬川さんがお持ち下さったのが、NAGRAのポータブルレコーダー、NAGRA SNN、通称ミニナグラです。
それを一目見た時の、衝撃。

う、う、う、美しい!

手のひらサイズのオープンデッキという常識はずれのメカ。そのサイズに、プロの映画の世界で求められる機能と音質を詰め込むと、答えはこれしかない、という姿です。メカの美しさの究極ではないでしょうか。
あまりの衝撃と感動に、見苦しくも我を忘れて大騒ぎしていた私の様子を、プロサウンド誌の09年8月号に記述してありますので、一部を引用してみましょう。


石丸 うわぁ〜、これがNAGRA SNN(通称ミニナグラ)ですか。恥ずかしながら実機を初めて見ました。小さいですね。それにすごく薄い。手帳のようです。

瀬川 単3電池2本で動いちゃうんですよ。上蓋を外すと、ほら。


石丸 おおおお、これはすごい。精密なメカの持つ美しさの一つの極致ですね。メカ好きや、メカという言葉に憧れて育った世代には、堪らないです。これが単3電池2本だなんて。

瀬川 テープの巻き取りは、この細いピンを起こして、このクランクを回して手動で巻き取れます。



石丸 これは堪らん(笑)

瀬川 このアタッチメントに装着しますと、こうなるんです。

石丸 おお、一気にナグラのフォルムになりますね。いやぁ、美しいなぁ。見とれてしまいます。

瀬川 こちらがヘッドアンプです。これだけで録音が出来てしまうので、海外ロケの時には、このセットだけで済ませてしまうこともありましたね。

石丸 済ませてしまえる音質を持っているということですね。




瀬川 そうですね。映画によっては、制作予算の都合上、私一人で行かなければならないこともありました。その場合、機材の量や大きさがかさばると、渡航手続きも大変ですし、移動もセッティングも大変ですから、これ1台あるととても便利なんですよ。このミニナグラは、ニューヨークのロケへ行った時に、現地で見つけて衝動買いしてしまいました(笑)百数十万円したかなぁ。

石丸 衝動買いの金額ではありませんが(笑)でもこの実機を見ると、その金額でも衝動買いしてしまうの分かります。私もやってしまうかもしれない(笑)

瀬川 ウォーターゲート事件の時の、例の盗聴テープ、あれはこのミニナグラと同型機で録られたと聞いています。噂ですけどね。

石丸 うわ、そうなんですか。これ一台でアメリカ大統領が辞任に追い込まれたという。

瀬川 私自身も勿論これを現場で使って来たのですが、私の先輩の録音技師の方々が「ちょっと貸してくれ」って(笑)ですからこのレコーダは本当に色んな映画の現場を飛び回って来ましたね。黒澤明監督の現場にも持って行かれましたし、市川崑さんの作品にも使われましたしね。

石丸 歴戦の名機ですね。瀬川さんご自身で印象に強く残っている、このレコーダを使用した現場は、どんなのがありますか?

瀬川 「汚れた英雄」っていう映画の冒頭で、バイクが疾走するんだけど、バイクの前の、カウルっていう部分にこれを隠して装着して、それで走ってもらって録ったんですよ。

石丸 私もあの冒頭のシーンは憶えていますが、うわぁ、あのシーンのあのバイクの音は、このミニナグラだったんですね。

瀬川 ご存知とは思いますが、車とかバイクの音って、実際に乗って至近距離で録らないと良い音がとれませんから、こういうバッテリー駆動で小型の録音機が必要になります。その中でも音質にこだわっていくと、このミニナグラになりますね。ちょっとこのテープの中に残っている録音素材を聴いてみますか?

録音素材を再生してみんなで聴いてみる。素材は三谷幸喜監督「みんなのいえ」撮影現場の台詞の同録の声。

石丸 これは…言葉もありません。これは、音質が良いとか悪いとかの話じゃないです。これはまさしく、今まで何十年も映画を観てきた、その「映画の音」です。映画の音って、こういう音だというイメージが、今、正にこのレコーダから流れてくるとは。
いかがでしたでしょうか。我ながらほれぼれするほどの舞い上がりっぷりです。

このサイトでも今まで随分と、私自身のメカ好きをカミングアウトしてきましたが、今回は特別です。
特定の目的と機能に特化されたメカというものは自ずから美しくなっていくものです。列車や飛行機、スポーツカーもそうでしょう。

私はこの対談の後、何度も想像します。映画「汚れた英雄」の撮影現場、サーキットで瀬川さんが汗をかきながらミニナグラをバイクのカウルの中に仕込んでいる姿を。少しでも良い音が録れるように、そして少しでもカメラに映り込まないように。ミニナグラは、そのために生まれたメカです。より小さく、より良い音で。それは専門家と専門メカの、本分を全うする幸せな瞬間です。

瀬川さんは現在は、SONOSAXのデジタルレコーダーをメインに使っていらっしゃいます。私も今はローランドのR-44が愛機です。でも、アナログのメカの持つ魅力というものは、デジタルには求めるべくもない、そして決して色褪せないものです。

最後に、ミニナグラが動いている様子をQTムービーでご紹介いたしましょう。リールの回転に寸分の遊びやブレがありません。精密の極地を目の当たりにして、「ハァ〜、美しい〜」と溜め息が出てしまいます。


 


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