ローランドVM-7200現場試用レポート

デジタル卓を舞台公演に使用する、と話したら、集中砲火を浴びてしまいました。
「よく恐くないね」「トラブッたらどうするの」「D/A・A/Dのタイムラグは致命傷でしょ」「音響として無責任だよ」
はい、もう皆様のおっしゃるとおり。
そのための、Lunadfuegoなのです。
Lunadfuegoは、非営利の実験研究グループです。机上の空論ではなく、疑問や興味を現場で試し、実践主義をモットーとします。普段の、仕事としての現場では、収支の面からも責任の面からも恐くて冒険できない実験を、ここLunadfuegoでやろう、という、それぞれプロの現場で活躍する人達の集まる場です。
通常のデモ運転の他に、稽古場での試用、本公演での試用も出来るようにしています…が!
私の一年間のうち、公演の入っていない時の殆どは、それを現実にするための地盤作りと信用の確保と人間関係確立に費やしていると言っても過言ではないでしょう。トホホ…。こういう労力を「儲ける」ベクトルに向けていたら今ごろは…。
ホント、損な性格の私。
愚痴ってるバヤイぢゃないローランドVM-7200です。

何と言っても工場から出てきたばかりのホヤホヤ、8月ですから発売もされていない、言わば「バグ出し」のレベルです。ですから今回ばかりは、稽古場に持ち込む前から、いろいろといじって下準備をしました。
また、GPから本番中はローランドの方がずっと張り付いて下さる、という体制です。
そりゃ発売前のものですからいろいろあります。そういう要望やクレーム、改良希望は既にローランドさんにはフィードバックいたしました。ですからここでそれをあげつらうこともないでしょう。
じゃ何でレポートを掲載するのか、と聞かれれば、そういう改良箇所を差っ引いてもなお、御報告するだけの「これはいいぞ」というポイントが沢山ある製品だったからです。
稽古から本番までの作業の流れに沿ってお話いたしましょう。

VM-7200は、コントローラ部とプロセッサ部に分かれています。両者の間はAES/EBUのIN/OUT2本のケーブルで接続されます。今回は、プロセッサ部を舞台袖に、コントローラ部をブースに設置して、両者の間を50mの2芯ケーブルで結びました。いやぁ、マルチケーブルを引かないでいいというのが、ラクチン、ラクチン。仕込み/バラシの負担が軽くなり、立ち上げケーブルの必要数も減り、ケーブルの引き回しも気を使わずにすみます。照明さんのケーブル群をまたいだり並走させたりしてもノイズと無縁ですから。

プロセッサは48input(Analog:22、Digital:26)16bus(MainL/R, CueL/R, FlexBus1-12)ですが、2台を高速デジタルバスでカスケードすることにより、2台のプロセッサをIN、OUTバラバラにコントロールしたり、2台のINPUTを1台のOUTPUTにまとめてコントロールしたりできます。今回は2台をカスケードして、94input(Analog:42、Digital:52)16bus(MainL/R, CueL/R, FlexBus1-12)でシステムを組みました。

このプロセッサ部のカスケードは現在のところ高速デジタルバスで行われているため、2台をどれだけ離してセッティング出来るか、というと、5m。ここが大変惜しいところで、距離に制限がなければ、カスケードする2台のプロセッサを、1台はブースに置いて卓回りを立ち上げ、もう1台を舞台袖において舞台回りを立ち上げる、というように出来たら、この卓、ハッキリ言って無敵でしょう!卓の機能に、オタリのライトワインダーがそのままインクルードされているようなもんだ。いやぁ、惜しいなぁ。なんとかこれを実現して欲しいなぁ。

リハ、GPの間はコントローラ部を客席の演出家の横においてオペと打ち込みを行いました。写真の右上に、オペ席が見えますが、こうやって客席にリモートを出して稽古をするというのは、現場の音響さんの長年の夢でしたねぇ。このVM-7200、照明さんの邪魔にならない程度に丁度よくLEDがハデで、演出家やスポンサー、主催者さんの注目を集める集める。イバリ満点。「音響さんもとうとうこういう時代になったんだねぇ」「今回は音響さんお金かけてるねぇ」「ギャラ足りる?少し上乗せしようか?ここまでやってくれるなら」いやぁ、多少目立ってみるもんですな。思わぬ効果を生んでくれました。
ディスプレイは明るさの調節が出来ます。大きさは、私にはオペに問題のない大きさだと感じられましたが、これは使う人それぞれでしょう。つまみは、TOAやRAMSAの卓のように、つまみの根元がボンヤリ光ってくれると、暗がりのブースで指が泳がないですむので、なんとか改良して欲しい。スタジオは明るいですが、舞台公演の音響操作は暗いところで行われる、ということを、開発の方は是非オペの様子をご覧になって知って頂きたい。
100ミリフェーダーのストロークは有り難いですね。これより短いとオペが出来ません。フェーダーノブのツマミの幅も、丁度いい。これより狭いとオペしづらい。フェーダー間の幅も、これ以上狭くしないで欲しい。フェーダーの軽さもいいですね。他社とは違うドライブのフェーダーだそうですが、デジタル卓だとどうしても量産品はフェーダーが重くなりがちですが、あんなフェーダーでどうやってオペしろっていうんでしょうね。VM-7200のフェーダーの軽さは理想です。

今回は、一つのキッカケに対しシーン1、という恰好で、キッカケ毎にシーンを進行するという、いわゆる、舞台音響で今までずっと行われてきてきたオペレート方法を選びました。このシーンの作成・修正が、実に簡単でスムースであることが、今回、稽古中そして本番と、私が「この卓は実用に使える」と強く実感できた大きな理由の一つです。ほんと、打ち込み方法とか操作方法とか上書きの注意点とか、殆ど気にしなくて、オペに専念していられる、というのは今まで理想だったし、こうでなくてはどんなに性能のいい卓でも、一期一会のリアルタイム進行である舞台のデジタル卓には採用できません。
ズボラでめんどくさがりでいつもローランドの川内さんに「ええかげんにRSS覚えてや〜」と突っ込まれるこのダメな私が、稽古開始ものの5分か10分で、操作方法は完全に身体に染み付いてしまいました。つまり、操作方法、打ち込み方法に煩わされることなく、舞台に没頭出来たのです。
何かひとつの操作をしようとするとき、殆どワンアクションでその機能を呼び出せて、最後に操作した状態が自動的に再現され、しかもセーブしなければ最終的な書き込みにはならない、つまり1シーンのリハーサル中にいくらでも修正が効き、最終的にこれでOKということになってはじめてそのシーンに上書きをさせればいい、という、全く以て舞台向きの機能です。これだけ現場に即したアクセス機能を持っていてくれるデジタル卓は、高額のハイエンドのものでもあまり見かけませんし、まして可搬型のデジタル卓では、こうはいきません。2馬身、3馬身と引き離しているように感じます。

先にフェーダーについて述べた通り、コントローラの大きさは、これ以上小さくする必要はないと思います。ただ、もう少し薄くなれば、一人での持ち運びが軽くなるので、いいなぁと思います。
写真でお分かり頂けるでしょうか、右がVM-7200の94input(Analog:42、Digital:52)、左が今回のバックアップ用アナログ卓、アレン&ヒースのAnalog36ch。スペースファクターの差は歴然ですね。デジタル卓になる以上、小さく軽くならなければ意味がないと思います。もちろん、小さすぎるのは無用ですが。コントローラはコントローラとして、人間工学デザインを最優先に取り入れた、「肉体にフィットする」ものを作って欲しいですね。このVM-7200に関しての、デザイン的な面での改善要求は、もう出してあります。

内蔵DSPの豊富さは、ローランドの真骨頂でしょう。グライコ、パラメ、各種ディレイやリヴァーヴ、そしてお得意のマイクシュミレーター(こいつがまたよく効く!)、おまけにスペアナまでついている。
本番中についつい遊んじゃいますね。セッティングの時も、スペアナで見ながら内蔵のEQを調節する、というのをやってみましたが、効き具合はなかなかです。

D/A、A/Dによって起きるタイムラグは、VM-7200は2mSで、長さにして約60cm。数値でこのように表記されたものが、実際に公演で使用して体感するとどうなるのか。これは今回のVM-7200の試用に際して、もっとも懸念されたところでした。結果は…?
私がアバウトなんでしょうか、出演者も演奏者も演出家もお客様も、み〜んなアバウトだったんでしょうか、だれ一人気づく人間も気にする人間もいませんでした。タイムラグのことなんか、忘れてました。
これについては、経験してみなければ、いろいろと憶測で言うことができます。60cmをナメるなとか、舞台と客席ブースの距離が15m以上離れていたら60cmのディレイタイムがなんだ、そんなの大丈夫だとか、試用する前はいろんな方からいろいろと言われました。
今回に関して言えば、「全く問題ありませんでした」と御報告致します。

とまれ、これまで設備用にしか語られてこなかった「舞台用・演劇用デジタル卓」が、このVM-7200の出現によって、劇団の所持する、あるいは学校やクラブで所有するデジタル卓という新しい世界を拓いたことに、大きな驚きと喜びを感じます。
設備用のデジタル卓ですら、まだまだ模索の途上であるというのに、可搬型のVM-7200がここまで成熟をしてしまっているということは、大変刺激的です。

ミュージカル公演は、バックアップのアナログ卓に頼ることなく、無事成功いたしました。
ローランドの川内さん、飯田さんにこの場を借りて、心から御礼申し上げます。
どうも有り難うございました。

このレポートは99年8月31日に書かれたものであり、予告なく追記・変更されることがあります。
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