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 メノッティ作曲のオペラ「泥棒とオールドミス」の公演について、効果音を頼まれました。
 その2日後、ジャンル・業種を越えてMacを愛用している方々が集う不定期のサロン「Mac友の会」にて、その日参加なさっていた、音響特機の岡田さんと、こんな話しになりました。

 話の発端は、「フクロウが暗闇で獲物の位置を正確に把握できるのは、常に首を前後左右に動かして、両耳の軸を揺さぶることで、獲物の音の定位を正確に把握しているからだ。ならば、音を再生するときに、再生する音の一つ一つの定位を、一瞬、小刻みに揺さぶってやれば、定位はハッキリするのではないだろうか?リスナーがフクロウの様に頭を揺さぶり続ける訳にはいかないから、音の方を揺さぶってやるというのはどうなんだろう?」
という、酔っ払いの酔っ払いらしい一言でした。

 岡田さんは穏やかに笑って聞いていらしたのですが、「定位の話ではないんだけどね」と生ビールを一口。
「音そのものを揺さぶる、ということなんだけど、」
と、もう一口。
「デジタル、ってのはどこまでいっても結局、音をノコギリの刃の様にギコギコと刻んでいる訳よ。みんながデジタル臭い、と言うのは、人間の聴感覚がそのノコギリの刃を、ちゃんと認識してしまうんだろう。聴感覚というのはそれだけスゴイ能力を持ってるってことだと思う。
 今はみんな、いかにしてそれを滑らかにするかを頑張っている訳だけど、音質をとやかく言わずに、音を認識させる、ということで限定すれば、逆に、サンプリングレートを落として、ノコギリの刃を粗くすれば、その音は、より認識され易くなるんではないんだろうかねぇ。」と、グーッと飲み干される。

 読者諸兄にはこれから申し上げる様なことは先刻御承知でしょうが、効果音は、感情を沸き立てたり盛り上げたり訴えたりする「心情としての効果音」と、何が起きているかなどを説明するための「記号としての効果音」があります。
 心情としての効果音には、音質が求められるのは尤もな話であり、その辺りに舞台公演の再生機器としてのMDが、「音質が物足りない」と敬遠される方がいらっしゃる理由になっているんでしょうが、記号としての効果音は、音質よりも、より瞬時に正確に認識されることの方が肝要になります。

 ここでいきなり、2日前のオペラ公演の打ち合わせが脳裏に蘇ります。今回求められているものは、オペラとしては効果音の数が大変多いのですが全て「記号としての効果音」です。舞台奥、お客様の目が届かない処で、今何が起きているのかを説明する効果音ばかり。スピーカの出処も、セットの奥のスピーカです。
 (別にオペラ公演に於いて効果音を軽視するのではなく寧ろその逆で、一つ一つの効果音について、ピッチシフトをかけてその音を出す箇所の音程に合わせて馴染ませるか、わざとはずして効果音を浮き彫りにさせるか、決断に苦悩するのがオペラにおける音響演出の苦労の一部分です。)
「岡田さん、今度のオペラ公演でやってみますよ。
稽古場で、サンプリングレート半分にして、22KHzにして、元の音と聞き比べてみます。」と乾杯。
「おォ、22キロだ、22キロ。」と飲み干され、その日はお開きとなりました。

 さて稽古場。パワーブックG3に音素材を記録したCD-Rを入れ、HDにコピー。22KHzにサンプリングレートを落とし、WAVEファイルでSAVE。SCSIでオタリのDX-5050にコピー。全部の作業が小さな机の上でみんな出来てしまいます。何て簡単で便利な世の中になったんでしょう、これで準備OKです。
 CD-Rを CDプレーヤに入れ、CDと22KHzのWAVEファイルの聴き比べです。スピーカは、効果音再生に持って来いの優れ物、Altec DTS-200。稽古場に組まれたセットの奥に、舞台中へ向けて、テスト開始。
 結果は、激烈に変わった、という程ではありませんが、確かにハッキリと変わりました。
44.1KHzの音に比べ、音が痩せた印象を受ける分、フェーダーで4dB程持ち上げてやると聴感上で同じ音量になりますが、その状態では、22KHzの方が、音がモワッとせず、スッキリと輪郭が出て聞こえました。生演奏のオーケストラの中での効果音再生になりますので、明瞭度の差は歴然です。演出家も指揮者も「不思議なものだねぇ」と面白がってくれました。

 今回ここでご紹介したのは、単なる事例の一つに過ぎず、「このやり方が正しい」などと申し上げる積りは毛頭ありません。たまたま今回の公演では、これがうまくいった、というだけのことに過ぎません。

 それよりも、刺激を与え合い、いつも互いにワクワクしていられる「人との交流」の有り難さを、私の周りにいらっしゃる沢山の方々への感謝の気持ちを込めて、お話させていただきました。

 このエッセイも前回で満3年を迎え、今号から4年目に入ります。年を追う毎に、この本と、私のホームページの連動で、連載を飛び出して様々なアクションが起きています。いつも、周りにいて下さっている皆さまのお陰と、心から感謝しています。

 これからもどうぞ、宜しくお願い致します。


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