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 今回は、前回の続き、スリーマンオペレーションシステムのお話です。
 私が普段手掛けているミュージカル公演において、3人のオペレータがそれぞれ、音楽(生演奏)、台詞(ワイヤレスマイクや仕込みマイク)、効果音を担当する構成で、その必然や必要性を、前回お話し致しました。
 私にとっては、公演を重ねていく過程の中での、ごく自然な流れとして、オペレータ3人、ミキサー3台という形が出来てきた訳で、理論や理想が先にあった訳ではありません。
 デザイナーの私の要望をオペレータ達が具現化するにあたって、オペレータ3人、ミキサー3台というシステムでなければ私の要求を満たせないということなら、何も迷うことはなく、それだけの費用とギャラを、主催者にキチンと納得させて支払わせるのが私の最大の仕事であります。別に大掛かりな仕事をやっているつもりはありません。自然な、当たり前の成り行きだと思っています。ずっとこうやって何年もやってきました。
 音響調整卓がデジタル化されていく中で、卓のメインパネルが制御部のみの役割となり、より小型化、よりデザインフリーとなれるということで、「どうあるべきか」という議論は、それこそ10年近く行われていますが、いつも理論、理想ばかりが先行して、現場に即していない、という批判もまた10年近く聞かれ続けています。
 デジタル化によって、小型化、少人数化が可能になる、という話も、そうなればいいな、とは思いますが、現状では、現場を見ずに、まず小型化少人数化というスローガン先行で開発が進むもんですから、出来上がったものをみても、「こらアカンわ」というものが出てくる、この繰り返しです。
 私の公演の環境は、いくら説明しても、どういうシステムで何故そうなっているのか説明しても理解して貰えないようで、私の公演の環境はどこかおかしい箇所でもあるのか、と落ち込んでいたところ、ある人との出会いがありました。
「ああ、判る判る、スリーマンズオペレーションでしょ、へぇ、石丸さんスリーマンズオペレーションシステムを採用してるんだ、それも生の舞台公演で、へぇえ、そいつは興味深いねぇ、是非一度、公演に誘ってよ」と言われて、今度はこっちが目をパチクリ。
「すいません、何ですか、それ?」
「へぇ、スリーマンズオペレーション知らないの、知らずに独自で構築したって訳か、これはいい、気に入った、よし、旅費はこっちでもってあげるから、今度そのスタジオへ見学にいこうか、ハリウッドへ」
「は、ハリウッドぉ?」
 スリーマンズオペレーションシステムとは、ハリウッドでの、映画のミックスダウンの作業のことです。
 フルデジタルの、100ch以上もある巨大なコンソールに、3人のオペレータが座ります。ミュージック、エフェクト、ダイアローグ(台詞)担当の3人です。卓は隣の部屋の「叩き出しルーム」と繋がっています。昔はそこに何十台ものテレコが並んでいて、そりゃ壮観な眺めだったそうですが、現在では巨大なハードディスクがうなりを上げているそうです。向こうはユニオンが厳しくて、叩き出しルームには専任のオペレータがいるそうです。
 卓の向こうには、大きなソファセットがあり、プロデューサー、監督らが座り、その向こうにスクリーンがあり、作品が投影され、それにあわせて、3人が同時に、それぞれ、ミュージック、エフェクト、ダイアローグを当てて行くオペを行っていくのだそうです。
 ハリウッドでは当たり前の作業ですが、コストの問題から、邦画界では殆どないそうです。
 本当に、全く私の公演のオペレート環境と同じです。
コストの問題、という点も、今回のエッセイの初めの方でお話した、「私の最大の仕事は、3人分のオペレータのギャラと、それだけの規模の機材費を、主催者に、不承不承出させるのではなく、きちんと納得して出させることだ」と述べたことと符合します。
 また、これにより、「デジタル卓の導入は、それによって省人数化をするものではない。デジタル化はそのためのものではないし、それには不向きである」ということもまた、明らかにされたと思います。
 結局は、人間が、人間と、人間を感動させたり楽しませようとして作るのが映画であり舞台公演です。
最後の最後に求められるのは、オペレータの持っている人間力、そして人間の感性、センスです。
 デジタル化によって、ワイヤレス卓、音楽卓、効果卓が統一され、1台の大きな卓に変身することは可能ですし、そうであって欲しいと思います。
 でも、それが、オペレータの人数を減らせる、ということとは関係がないし、無理矢理絡ませて話をして欲しくありません。そういうものではないということが、今回の話で、お分かり頂けたと思います。
 いやぁそれにしても、「遊びをせむとや生まれけん」とは良く言ったもので、異業種の方との交流が、今、一番楽しく刺激的です。とは言っても、ハリウッドに行く程の長い休暇が、果たして一体いつになったら取れるのかしら。


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