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 俎板の上の鯉、と言いますが、鯉にも鯉なりに、俎板の上に乗るからには、覚悟もあれば、乗り方ってェもンがあります。また、乗ったからにゃ、どうせなら塩梅よく捌いてもらいたいってのが心情で、お造りにして貰える筈が、なんだかフナの解剖みたいにされたんじゃ、鯉だって俎板と板前を選びてェ、と泣きが入る訳です。また、上手に仕事をして貰えると、あの人の為なら次回も喜んで頑張ろう、という気になります。今回はそんなお話。素材の、キ・モ・チ。

 8月13日に放送されたNHKの夜11時のニュースの中で、2分半程のコーナーですが、「再発見!日本の夏」という特集の取材を受けました。

 この放送技術の私の連載エッセイをご覧になっていて、取材を思い付かれたとのことでしたので、私としても大変嬉しく有り難く、是非御協力させて頂きましょうということになりました。

 夏の蝉の音を探していたので、兵庫県西宮市でのクマゼミの音ロケと、東京都内での、アブラゼミとミンミンゼミの音ロケに同行なさっての取材となりました。

 驚いたのは、たった2分半のコーナーに、3日も撮影を行ったことです。暑い盛りの中、私とカメラさんと音声さんの3人、汗だくになっての収録をしましたが、丁寧な仕事をなさるんだなあと、本当に感心してしまいました。

 撮影中も、いろいろと気を使っていただいて、これだけこちらの考えや日頃思っていることを大切にしながら制作しようとしてくれているのが伝わってくれば、私の方も、「何でも言って下さい、何でもしましょう」という気持ちになってきます。

 被写体や取材の対象に対しての気配りというのは別に、「疲れましたか?休みましょうか?」とか、「お飲み物をお持ちしましょうか」とか、美味しいものを食べさせてくれるとか、そういう低い次元の話ではありません。

 「この人、何で私を選んだんだろう」「普段、私の話のどこを聞いてた訳?」「私の何に共感して、取材の対象に選んだんだろう」という疑問が湧いてしまっては、もう、何も話せないし、カメラの前に立つことも出来ません。

 今回のNHKの方は、私が以前この放送技術の連載の中で書いた、蝉の話を読んでいらっしゃいましたが、取材の日取りを決めてからも、いろいろと蝉についてあちらこちらで調べては毎日の様に私に連絡を下さって、「石丸さん、クマゼミは確かに関西の夏を印象づける音ですが、夏でもクマゼミは午前中しか鳴かないそうですよ」「従来、田舎や郊外、林の中をイメージさせていたミンミンゼミが、去年、今年あたりから、都会の中でも随分聞かれるようになってきたそうですよ。これはどういうことでしょうかね。郊外や林が開拓されてしまって、ミンミンゼミが住処を追われて都会に出てきた、ってことでしょうかね」と、取材日前日まで、いろんな話をしてくださいました。

 放送が終わって何日かすると、番組をテープに入れて送って下さいましたが、見ると、2分半、という時間が、放送では意外に長い時間だなということ、そこに自分が出ずっぱりになるというのは、自分が予想していた以上に大変なことなんだな、と実感しました。

 NHK報道局の澤岡さん。音声の須藤さん。本当に有り難うございました。お疲れさまでした。また会いましょうね。

 私が「音の絵本」やCDブック、いわゆる完パケの音のドラマを制作する時には、いつもトークバックを使いません。不合理は承知の上です。「40年前の手法だね」とみんな笑います。でもみんな止めさせようとしません。不合理でアナクロチックではあっても、そのやり方がどれだけキャストを上手に引っ張ってるか、スタッフはみんな知ってるからです。

 もう一つ、不合理でアナクロチックな手法を採ってます。それは、声録りとミックスダウンを別にせず、音楽も効果音も流しながらキャストに「しゃべって」貰うのではなく、芝居をしてもらいます。もちろんキャストは台本なんて持ちません。台詞は全部暗記してきます。そうしろなんて言いません。トークバックを使わなければ、そして、声録りとミックスダウンを分けるなんてキャストをモノ扱いするようなことをしなければ、自然とキャストも自分で台詞を暗記してきます。そうすれば、マイクはそのキャストから立ち上るスピリッツを収録してくれるのです。

「石丸メソッド」と揶揄する人もいますが、手法に古いも新しいもなく、私はただ、自分がキャストだった時代に、して欲しかった事をしているだけです。

 これが私の、素材のキ・モ・チ。


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