otowa.gif

 久しぶりに、時代劇の公演に携わりました。

 と言っても、若い役者さんで構成されている劇団の、現代感覚の時代劇です。一応、衣装・道具は時代物になってるものの、メイクや髪形はまるっきりのロックバンドです。

 そこへ、コンサートのような照明に、ロスコーをモウモウとたき込め、ギンギンバリバリの大音量のロックを流しての公演です。

 こういう公演に眉をひそめる年配の方も多いようですが、これが人気で、若い世代にとって
 時代劇はSFと同じくらい、現代から遠く離れた、現実と剥離したもののようです。ゲームソフトのキャラクターにしても、SFと時代劇がゴチャマゼになったようなものが多いですね。
 耳鳴りがしそうなズダダダ…という激しいロックの音楽にしても、この公演を頼まれた時点で演出家から、「石丸さんはあんまり好きじゃないかもしれませんが、俺はこういうのがやりたいんです、だからこれで行かせて下さいね」と言われて「何を言うか、こう見えても学生の頃からクィーンの大ファンだ」と胸を叩きましたので、今回は音量の話ではありません。
 音楽は全部オリジナルで、芝居の稽古以外に立ち廻りの稽古にも付き合います。
 意外にも、立ち廻りは古風な、いわゆる普通の立ち廻りをやろうとしています。立ち廻りのエッセンスを取り入れた、音楽主体のダンス風に仕立てるのかと思っていましたが、予想がはずれました。

 さあ、こうなると、いろいろとアラが目立って来ます。みんな、手で、手と腕だけで斬っているんです。

 そう言うと、怪訝そうな顔をして、「だって、テレビの時代劇でも、こんな感じでしょ。」と言うので、昔、年配の先達に教わったことを話しました。

 私は大学時代、大学の団体としては日本で唯一と言われた「殺陣同志会」という会に一時期所属していました。OBには真田広之氏を拝する本格的な倶楽部です。

 「お前は背が高くて斬り甲斐がある」と先輩方に変な重宝のされ方をし、アトラクションの出演で豊島園の広いグラウンドを駆けずり回って、ヒイヒイ言いながら斬り合った思い出があります。

 その頃の経験は、やがて舞台の時代劇での、立ち廻りの場面で音響のオペレートをする時に、随分と役に立ちました。

 そこの先輩の年配の方がよくテレビの時代劇のビデオを見ながら、「立ち廻りがなってねぇなぁ、あれじゃ子供のチャンバラだぜ」と言っているのをよく聞かされます。
 じゃ、どう違うのかと聞くと、「腰だよ。腰で斬るもんなんだよ。」と言って、立ち廻りがうまい、と言われる役者さんの名前を何人か教えてくれ、「この人達の立ち廻りの、腰をよく見てみな。それから、他の時代劇を見てみな。全然違うって分かるから。
 最近はすぐアップで撮っちゃうから、パッと見た目には分かりにくくなったがよ。引いて撮ったり、舞台の上じゃ、歴然だよ。
 それと、あのバシュ、バシュっていう効果音だな。あれが、立ち廻りの腕前を誤魔化してくれるんじゃねえのか?」
 この話を役者さんにすると、みんな面白そうに聞き入ります。そして私も混ざって、「腰で斬れ!」と言いながら、昔教わった殺陣の型を幾つか一緒にやってみました。
 みるみる場面が迫力と凄みを増してきます。

また、件の年配の先達の言葉が蘇ってきました。
「野菜切ってる訳じゃねぇんだ。親もいれば人生のドラマもある、人を一人、斬ろうってんだからよ。全部バシュ、バシュって音でいい訳がなかろうぜ。」
 これについては私の仕事です。実験ではありますが、大立ち廻りの、斬る相手、斬る型、それぞれに併せて音を変えてみました。
 ホントは、ここぞ、というところで一発だけ、斬る音を付けようと思っていましたが、演出家から「こればっかりはどうしても」と頼まれ、一手毎に全部付けました。
 音出し稽古。大立ち廻りの、最後の一手、轟く大音量の音楽の中、主人公が、舞台中央、ほとばしる激情と共に大きく振りかぶって、「腰で斬れ!」と叫ぶ演出家。

 吼えるような声と共に振り降ろし、そこへ、
ずん!という音を用意しました。

 おお、すげえ、バシュじゃないのに、イヤこっちの方が重いよ、凄みがあるよ、と役者さん達が言い合う中、演出家は「イヤー、出来た出来た、この場はこれでいこう、今日の稽古はこれで終わり〜!」と、上機嫌です。何だか私もとても嬉しかったです。

 と、主役がひっくり返り、

「あ〜疲れた〜、腰が痛ェ〜!腰で斬り過ぎたナ。」

backnext
OTOWAYA home