さて今回は前回の続きです。

 福田善之先生脚本・演出のミュージカル「若草物語」で、オルコット原作の若草物語の4人姉妹と、その小説を愛する昭和20年の日本の4人姉妹の二つの物語がクロスオーバーしながら進んでゆき、ラストで、小説のメグ、ジョー、ベス、エイミーの4人姉妹の様に、貧しく苦しくとも夢をもって心は豊かに生きようと、日本の4人姉妹が兵器工場へ出掛けようとする、8月6日の朝、8時15分、原爆が彼女達もろとも何もかも奪い去ってゆく、その原爆の音をどう創るか、その七転八倒のお話を致しました。

 ホールを揺るがす爆音の前に、ピシイッ!という、時の引き裂かれる音、というのをどうしても付けたい。

 まずは元ネタとなる音探しです。

 半紙、ガラスを擦り合わせる音、発泡スチロール、ホースから水が吹き出る瞬間の音、エコールームでタップボード(タップダンス用のボードです)を革ベルトで叩く音、手当たり次第に録っては加工します。

 加工はごく単純に、アナログオープンのスクラッチとリバーブだけにしました。あまりいじり過ぎると、素材の音の迫力が奥に引っ込んでしまうからです。

 7〜8種類の元ネタを試してうまくいかず、苦しんでいるときに、ふぉるく、という音響会社の宮沢正光さんが、元ネタのヒントを下さいました。もちろんそのまま頂いたりはしませんが、大いにインスパイアされました。

 出来上がった音を稽古場で福田先生に聴いて頂きました。

 ピシイッ!という音が炸裂して一息の間があって、ゴゴゴゴゴ…と壁や床を揺るがす爆音がやってきます。長い長い爆音の余韻が消えていき、私は息を殺して、福田先生の反応を伺っていました。

 稽古場は静まり返って、本当に時間が停止したようです。

 やがて我に返った俳優達から、「怖〜い!」という声が口々に上がりました。

 怖いのは当たり前です。そういう音を作っているんですから。でも私は、それだけでは満足できません。

 怖さの向こう側に私が仕込んだ想いが、伝わるかどうか、です。

 やがて主役の4人、メグ、ジョー、ベス、エイミーの内、ベス役の女優が、

「怖いけど、なんか、哀しいね。」

するとジョー役の女優が、

「そうそう、そうなのよ。私も思った。なんかこう、ああ、哀しい、って、胸が迫り上がるような感じ。」

 稽古場のあちこちで、ああ思った、こう感じた、とみんなが話し始めました。

 どうやら私の想いは伝わったようです。私の原爆は、迫力と、悪魔のような凶暴な破壊力のリアリティと、その素性の恐ろしさ、それに加えてどうしようもない哀しみ、原爆の被害に遭われた方々の哀しみだけでなく、被害に遭った方々と同じ人間がこれを創ってしまったんだという、人間の哀しみを、爆音に乗せて届けることが出来たようです。

 福田先生に「いかがでしょうか」とお伺いすると、それまで微動だにしなかった福田先生は私を見てニコッと笑って、

「彼女達が答えを言ってるじゃないの。これでいきましょうよ。有り難う。」

とおっしゃって下さいました。

 福田先生は、東京大空襲を題材にしたミュージカル「私の下町」で、平成8年度の文化庁芸術祭大賞を受賞されました。題材こそ違え、テーマは同じです。受賞によって、戦争を次世代に語り継ぐ、という想いを新たになさっている福田先生に、原爆の音をこのように褒めて頂き、まずは肩の荷が一つおりました。

 まだ関門は残っています。これを本番で、お客様にどう聴かせるか、です。

 ビクターの国分さんという、舞台芸術に大変理解のある方のご協力を頂いて、ビクターの新製品開発チームの方々の御厚意のもと、メインスピーカには、新製品の4ウエイ(ハイ、ミッドロー、ロー、スーパーロー)システムをお借りしました。通常のSRではハイとローの2ウエイなのですが、生バンドに俳優の歌声なども、とてもリアルで自然なSRが実現できました。そして勿論、その巨大な大きさと出力は、ただただ原爆1発の為だけのものです。

 本番。小説の中の4人姉妹の父親が戦死し、その葬式の場面や、ベスが息を引き取るところなどは、福田先生の絶妙の筆さばきで客席は殆どがすすり泣きです。

 こんな公演観たことありません。

 そしてラスト。「行ってきまあーす!」と4姉妹が母親に手を振ったその瞬間、

ピシイッ!ASGの奥畑社長の素晴らしい照明で、客席に目のくらむ閃光が、そして一瞬真っ暗になり、ドドーン!という爆音でゆっくりと客席に目つぶしの真っ赤な光で染められ、その中をゆっくりとかげろうのように4姉妹が崩れ落ちていきます。

 客席が凍り付きました。客席の時間が止まりました。

 次号、大興奮のカーテンコールと関係者の談話をお伝えします。