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 ふじたあさや先生作・演出の「べっかんこ鬼」という作品に参加する機会を得ました。

この作品は初演以来30年以上、現在に至るまで東欧をはじめ世界中で翻訳・上演が絶えることなく継続している音楽劇です。
この作品を児童劇と受け取られることがあるのは、東北の遠野地方の民話をベースにしているということもあるでしょう。
しかし、そういった表層的な見た目だけでこの作品を判断すると、とんでもない失敗をする仕掛けが、この作品にはいたるところに企まれています。

この作品は「音楽劇」と名乗っています。ミュージカルではなく、音楽劇だというのです。これが、企みの一つ目です。楽器は邦楽器を多用し、メロディーラインも邦楽を研究し尽くされたものです。「歌う」のではなく「謡う」のです。この隠された企みは素晴らしい切れ味です。
そして、能舞台を模した舞台中央の回りを、コロスと名乗る狂言回し達が、時にはナレーターを演じ、時には村人になり、時には森の中の動物達を演じます。主要な登場人物は摺り足で動き、舞台に登場しては名乗り、舞台をグルリと歩いて回ると違う場面になる、狂言と同じ演技を行ないます。

つまり、日本の狂言という舞台表現手法と、古代ギリシャ劇という舞台表現手法の両方を融合させた舞台演出空間を器として用意してみせ、両者の寓意性に富んだ表現手法の共通点をみせてくれます。これが企みの二つ目です。
三つ目にして最大の企みは、この作品のテーマが、「鬼とは見た目の姿ではなく、心に生まれ心に棲むものである」というもので、つまり、目に映るものに惑わされるが肝心な大切な真実は目には見えない、ということを、人の心に芽生える鬼の凄まじさを描くことで観客に伝えて来ます。

それはそのまま、この作品を、見た目のまま児童劇と思ってしまうと、この作品の肝心なものが見えていないということになってしまう、ということにも繋がり、さらに切り込んで言えば、児童劇というジャンルを、児童向けだということだけで軽視する風潮に対する企みのように思えてくるのです。

ふじたあさや先生の作品は、10年近く前に、「ねこはしる」という上演作品でご一緒させていただいた時にも痛感いたしましたが、一見児童劇かと勘違いするような敷居の低い入り口の作品が、中に入ると縦横に張り巡らされた演出の企みで、大きな普遍的なテーマを内包している、ということが多く、本当に素晴らしいものです。

遠野地方の民話を題材に採ったこのお話は、山深い村の言い伝えをコロスが口々に語ることろから始まります。
村のある山の上には鬼達がいて、人々は鬼を恐れ敬っていること。鬼の方は、山の神の言いつけで、村人が悪いことをすると罰を与える、つまりモラルを教える存在です。
つまりこの作品での鬼達は、人と神のあいだに立ってつなぐ存在として描かれています。

主人公のべっかんこ鬼は、鬼の中でも不細工な顔立ちで、あっかんべぇをしているような風貌なので人々が恐れず、いじめられます。心根とは関係なく見た目で差別をされる存在です。
一方、人間の側にも、差別されるものがいます。ヒロインの「ゆき」という娘は目が見えず、村人の輪の中に入れてもらえずに不自由をしています。

この、べっかんこ鬼と、ゆきが出会って、話は端折りますが、いろいろあって、差別される者同士の心の通い合い、そして、ゆきの目が見えないことから、べっかんこ鬼は見た目を気にする事なく、性根の優しさを、ゆきに受け入れて貰えて二人に愛が芽生えます。
しかし人々の群れはこうした異形の例外の存在を認めません。鬼が娘をさらったと言って、べっかんこ鬼を鉄砲で撃ち殺してしまいます。
ラスト、目が見えるようになったゆきは、自分の腕の中で息を引き取るべっかんこ鬼を看取ると、人間への憎しみから、鬼に変身してしまいます。

鬼が人の心に生まれた瞬間です。

日本の伝統芸能にも古代ギリシャ劇にもある、「物狂い」の激しい舞を邦楽にあわせて「ゆき」が踊り狂い、コロスがそれに追従する様子はシャーマニズムを彷彿とさせます。途中、うつくしい「ゆき」が恐ろしい鬼の面をつけると、舞台のラストは壮絶な高揚を迎えます。
本当に、久々に、音響デザイナーとして本気になれる、熱くなれる作品に出会いました。

ふじた先生に、「こういう作品だから、効果音は出来るだけ生でやりたい。舞台袖で音響がやってもいいが、できればコロスの人たちが舞台上でやってくれると、もっといいと思うのですが」と提案しますと、ふじた先生はニコッと笑って、「それはいいけど、コロスが上手く擬音道具を扱えるかが心配だなぁ。いっそ音響さん達がコロスの衣装をつけて、一緒に出演しちゃってくれた方がいいと思うんだけど。」と逆提案をなさいました。
こう言われた時の私の喜び、嬉しさ、読者諸兄にはお分かりいただけるでしょう。
このお話、次号に続きます。

(石丸耕一 音響演出家 www.lunadfuego.com)


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