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 最近、伝統芸能や古典の更にその前、古典のルーツに、とても興味が出てきました。

現在、洋の東西を問わず、古典と呼ばれているものは、その殆どが17〜18世紀頃に形成がまとまり、そして19世紀に成熟をみたものです。
つまり、世界史の年表をみると、意外と最近だと言えるでしょう。

西洋音楽で言えばバッハ以前、ルネサンス時代の音楽や、更にその前の時代にも思いを馳せてしまいます。
中世前期のポピュラーな楽器は、竪琴のような楽器と、フルートに似た木管の楽器です。バイオリンのような、弓で弦をこするタイプの楽器は、もっと後になってから、中央アジアを起源に、トルコ経由、あるいはロマ族のような流浪の民の手によってヨーロッパに広まって行きました。

かつてベネツィアを訪れた際、街の中の教会で、バイオリンの歴史を展示で説明するイベントが開かれていて、観に行ったことがありました。バイオリンのご先祖様は、とても中近東的な雰囲気を持った物でした。
中近東の馬頭琴をルーツとしたバイオリンと、ギリシア以前のオリエント文明で弓の弦を弾いたことから始まった竪琴が、どんな経路や変遷を経て、現在のオーケストラのステージの上でバイオリンとハープとして共に並んでいるのか。
その変遷の時間の方が、18世紀以降から現代に至るまでのいわゆる古典と呼ばれるものの成熟の時間よりもはるかに長いのですから、関心をそそられずにはいられません。

楽器の伝播のルートは人の移動の軌跡です。「人はどこからやってきて、どこへ行くのか」という、人間の根本的な問いにも繋がって行きます。
金管楽器はローマ帝国やエジプト古代王朝にも金属製のラッパの原型が認められる一方、北方ゲルマン民族による獣の角を利用した角笛などのホーンの類いがあり、これらがヨーロッパで出会って現在の姿に発展して行ったのでしょう。
では日本はどうでしょう。

日本は北からと南からとの二つの異なる文化が出会った場所とされています。東の果てですから、文化の伝播の終着地とも言えるでしょう。
伝播されてきた文化が一種類だけであれば、日本文化はここまで独自性を持たなかったのでしょう。異なった文化が出会い混ざることによって、日本文化は強い独自性を持ったのだと思います。
北からやって来た文化は大陸からの文化。
南からやって来た文化はポリネシア海洋民族文化。
学生の頃、歴史の授業で習ったとおり、高床式住居、つまり床を高くした家を造り、家の中では床に直に座る、椅子と机で生活していない文化は、南方ポリネシアの海洋民族文化のものです。

大変興味深いのは、大和・奈良時代に、大陸文化の影響を受けて宮廷内が机と椅子の様式になったにも関わらず、平安時代に菅原道真が鎖国をすると、日本独自の文化が形作られるようになり、その居住空間は床を高くした家で、床に畳という道具を敷いて床に座る様式になった、いやむしろ戻ったというべきかもしれませんが。
この、戻ってしまった、という点が大変面白いと思います。天平文化の頃に、あれだけ積極的に大陸文化を取り入れようとしながら、いざ鎖国をして、何を選択するかと言えば、大陸的ではない文化に針が振れていくのです。南方海洋民族文化の方が日本人のルーツとして根深いのでしょうか。
そう考えてみると、菅原道真という人は、日本文化が独自性を持つ機会を作った、日本の歴史の中で一、二を争う重要な人物ではないかと思うのです。

椅子に座る文化か床に座る文化かの違いで、楽器の進化による形状の変化にも影響が出て来ます。
床に座る文化の中では、床に座って演奏するのに適した形状に進化をして行くからです。
例えば琴。中国では琴は机に載せて、椅子に座って演奏していました。その琴が日本に渡って来て、次第に床に置いて演奏するのに適した姿に変わっていきました。

こうして考えてみると、現在私たちが古典と呼んでいるものは、古代からの文明の、それぞれの地域での進化成熟と、その文明の移動経路と交流によって起きる化学反応の、途中経過であるのだということが分かります。
ということは、古典は、その型をただ闇雲に守ったり有り難がったりするのではなく、なぜそのような型になったのか、古典が形成される以前の遥か昔にまで思いを馳せて、古典のスタイルの「理由」を知ることが重要だということが分かります。

それが分かれば、古典をアレンジしたり、現代のテイストや現代の技術を導入するにあたって、何を壊してはいけないのか、どこは構わないのか、が浮かび上がってくるということです。

南半球からスタートし、ポリネシア、インドネシアの島々やハワイにまで分布し、黒潮に乗って九州に伝播したポリネシア海洋民族文化の起源はイースター島だそうです。それ以前が何処かは研究中だそうです。してみると、渋谷駅にモアイ像があって若者の待ち合わせ場所になっているのも、あながち無縁ではない、ということですね。

(石丸耕一 音響演出家 www.lunadfuego.com)


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