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 オペラ「魔笛」の音響を頼まれました。

私にとっては4年ぶりの、4回目になる「魔笛」公演です。
2006年に「魔笛」公演に参加した時は、ちょうどモーツァルトの生誕250周年記念の年で、このエッセイにもその時の模様を書かせていただきました。
その際に、「また数年後に、この作品に挑みたい」と書きましたが、その時が来た、という訳です。

オペラ公演はどうしても、上演回数が多い作品と、そうでない作品がはっきり分かれてしまいます。
「魔笛」「カルメン」「椿姫」は、三大人気オペラと呼ばれ、上演回数もとても多いものです。
カルメンは一般の人にも知られた有名な曲や歌が目白押しで、オペラに馴染みのない人にとってはうってつけの作品です。

「魔笛」なら夜の女王のアリア、「椿姫」なら乾杯の歌、一般に知られた有名な曲があるオペラはチケットの売り上げも良くなります。
この三大人気オペラ以外では、モーツァルトやロッシーニの、登場人物が少なくて軽い恋愛コメディのものが多く上演されます。「コシ・ファン・トゥッテ」や「セビリアの理髪師」「フィガロの結婚」などがそうです。こういった作品群は、衣装や大道具にお金がかからず、出演者も少人数で、小規模な団体でも上演が実現しやすいという利点があります。

「アイーダ」や「トゥーランドット」のような巨大なグランドオペラは壮麗で、オペラの醍醐味のひとつではありますが、グランドオペラばかりではその国にオペラは根付きません。
ヨーロッパでは、グランドオペラが上演される一方で、チャンバーオペラ、室内オペラが数多く上演されていて、更には、プロでない一般の人たちが自分たちでオペラを簡易的に上演しては自分たちで歌って演じて楽しんでいます。ここまできてはじめて「根付いた」と言えるのです。そういう意味では、日本はまだまだです。

普段から親しくおつきあいさせていただいている指揮者のM氏は、「入場料3000円で、夏休みとクリスマスの年2回、オペラをやるんだ。親子オペラね。それを10年続けるんだ。そうすれば、第1回の頃に親に手を引かれて来ていた子供が、10年後には大人になって、自分で働いたお金で来てくれるようになる。そうなってやっと、オペラが根付いたと言えると思うんだよね。」とおっしゃいます。M氏はM氏で、オペラが「根付いた」という定義を考え、求め、悩んでいらっしゃったのだなと感じます。

モーツァルトのオペラは、小編成のオペラが多いので、金銭的な面では上演しやすいと言えます。
「劇場支配人」など、小さな空間で楽しめる小品が多いのも特長です。
しかし「魔笛」は、別格のものです。

私にとっての「魔笛」という作品については、2004年と2006年にこのエッセイにて散々書かせていただきましたので今回は割愛しましょう。
ただ、指揮者のM氏と共に99年、04年、06年と3回に渡ってM氏と作り上げて来た「魔笛」のスタイルは、普通のお芝居よりも効果音が多く、いたるところで雷の轟音が鳴り、サラウンドで火の音や洪水、地響きが轟くので、インパクトが大きかったのでしょう。口コミで評判になっていたようです。

稽古の前段階の歌のレッスンの時期に、ソリスト達は指揮者に指示を受けますが、その時、随所で「ハイここで雷が鳴るから」「このフェルマータで雷です」「この三連符で落雷と地鳴りの轟音が来るからね」と指揮者に言われ、その指示をスコアに書き込みながらソリスト達は口々に、「こりゃぁひょっとして…」「ひょっとして例の…」「例の語り草の、あの魔笛の再来か?」と言い合っていたそうです。

M氏と私の魔笛が、そんなふうに語り草になっていたとはつゆ知らず、稽古に合流する日が来ました。
序曲が終わり、一曲目のイントロで早くも雷2連発があるのですが、音を出したとたん、出演者の方々が一斉にどよめいていた、と、オペレータから報告を受けて、逆にこちらが驚きました。
しかしソリストの方達は、そうやって語り草になっていたM氏と私の魔笛スタイルに出演することに、非常に意欲的に臨んでいらっしゃいました。
そうは言っても、無秩序にハチャメチャなアレンジを加えて好き放題をやっている訳ではありません。むしろその逆です。

指揮者のM氏は、稽古場でタクトを振りながら出演者に、
「そんな歌い方じゃロマン派だろ!これはモーツァルトなんだ!古典派なんだ!古典派の軸をブラすな!」と怒鳴ります。
また、「モーツァルトにはモーツァルトのテンポがある。僕は初めから最後まで絶対にそれを崩さずに指揮をするんだ。走ったり溜めたりしないしさせない。それをやったらモーツァルトじゃなくなるんだ。そういう、作品の本質やモーツァルトを上演する意味がなくなるようなことはしてはいけないんだ。」
と、敢然と言い切ります。

そんなM氏だからこそ私も全力でこの作品に取り組むのですが、ではそんなM氏がなぜ効果音を多用したがるのか。このお話、次回に続きます。

(石丸耕一 音響演出家 www.lunadfuego.com)


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