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 3D映画の封切り公開が相次ぎ、人気と評判を呼んで、映像は今、立体映像へと大きく動いています。

渋谷のNHKスタジオ見学コースの中にある、立体映像用の眼鏡が必要ない立体映像の体験コーナーは、年を追うごとに素晴らしい進歩を体験させてくれて、地方から東京観光や修学旅行にやってくる子供や学生たちの人気の的になっています。

「見た見た!?あれ、すごいよねー」

「いつから放送で使われるようになるのかなー。あれでサッカーの中継とかしたらスッゲェよな。」

彼らの喜びと期待はハンパじゃありません。大丈夫だよ、君らが自分の財布で受信料払うようになる頃にはきっと、試験放送が始まってるよ。たぶん。
視覚は意識上の感覚、聴覚は無意識下の感覚と言われるように、脳内の作業では聴覚が視覚に優先し視覚を聴覚情報で支えていますが、無意識下でのことなので、普通の生活の中で人間は、聴いたものよりも目に入るものの方に心を奪われます。

ですからどうしても、ヴィジュアルの進歩の方が音の進歩よりも注目されてしまうのは致し方のないことでしょう。
次世代ハイビジョン、スーパーハイビジョンは画素数に換算して3300万画素だそうです。現行のハイビジョンが画素数に換算すると330万画素だそうですから、一気に10倍です。すごいですね。
人間の眼は、3000万画素を超えると、画質の優劣を判別出来なくなるという話を聞きました。ということは、3300万画素のスーパーハイビジョン以降は、それ以上の画質向上を追求しても人間の眼では分からない、人間の眼の限界に到達することろまで技術がやって来た、ということになります。人類の英知に賞賛を送りたくなる話ですね。

画質向上が行き着くところまで行き着いたとなれば、その先の進歩の方向性が立体へと向かうのは、自然な流れだと思います。
映像が立体になった、では音は?という話になるのは観客や視聴者の方々から自然発生的に出てくるでしょう。実際、もう出て来ています。
15年後のリビングルームを想像してみましょう。
液晶やプラズマ、プロジェクター方式などによって、平面化された画面は、立体映像の効果を考慮して壁掛けになっていくでしょう。居住空間としてのリビングをできるだけ広く自由に使えるようにするために、テレビ画面やスピーカは平面壁掛けの方向に向かうしかありません。大型の箱形スピーカが居住空間で敬遠されて売れなくなっているのも同じ理由だからです。

映像信号も音声信号もワイヤレスで送られて、ケーブルが無くなりスッキリとしたインテリアになるでしょう。電源も今世紀中頃には電波供給されるのではないでしょうか。あとたった40年ほどの話です。
音は立体になるの?という問いに対しては、既にサラウンド放送が始まっているよ、という答えが返ってくるのでしょう。
しかし、私はそこで、ちょっと首をかしげてしまうのです。
画面が立体になった時、現行のサラウンドで果たしていいのか、という疑問です。

これは私自身が、サラウンド作品制作にたずさわり、また舞台公演にサラウンド技術を導入する試みを10年以上に渡って続けて来た上で感じる疑問です。
立体の音、というのは技術や規格ではなく、イメージの産物です。
サラウンドというのは、単なる技術規格にすぎません。それも日々進歩して姿形を変えている、現在進行形の規格です。

サラウンド技術の舞台公演への導入・流用でさえ、規格そのままを劇場空間へ持ち込んでも役には立たず、どのようにアレンジすれば良いかという実験を続けて、一応の答えを見つけることが出来ました。これは、日本舞台音響家協会が主催し文化庁助成事業として2005年から2009年まで毎年開催された実験会において報告をさせていただいています。
従来のサラウンドの規格は、画が立体として飛び出してこない前提で作られて来たものです。その規格をそのまま立体映像に使用しても、不自然さと違和感が起きるのは当然のことです。

キーワードの一つとして、画面がそのままスピーカになっている、ということが挙げられるでしょう。もはや画面の左右にスピーカは不要です。
画面上に二人の人物が映っているとして、その人物の位置から声が出て聴こえてくる。「その位置から聴こえるよう定位させる」ではなく、画面上に無数の点音源があって正に画面の口元で音が出る、という技術が必要でしょう。

画面に映っているものの音はすべて、その画面の場所から音がする、というディスプレイスピーカがあって、その画が立体になるのに併せて音も連動して飛び出す。サイドやリアのスピーカは効果用や補助スピーカとして用意されるでしょうが、正面のスピーカがLCRではない、いや、むしろ分割されずに無数のモノラルが敷き詰められたディスプレイスピーカが、従来のステレオやサラウンドといった規格から解放されて、全く新しい自由な空間イメージを作ることが出来るようになるのではないでしょうか。

そんなことを夢想しながらワクワクしている今日このごろです。


(石丸耕一 音響演出家 www.lunadfuego.com)


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