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 前回の小劇場公演での音のお話の続きです。

別に小劇場に限らず、稽古場には何度も足を運びます。だいたい、役者さんが台本(ホン)を持ちながらの立ち稽古に入ったあたりから、まずは手ぶらで(機材など無しで台本だけ持って)稽古に行きます。

音響プランは、台本だけ読んでいては立てられません。稽古場で、役者さんの声を聞いて、芝居を見て、ここの台詞はこういうトーンで言うのか、このくらいの間(ま)を取るのか、このくらいのテンポで芝居をするのか、そこを押さえないとプランは立てられません。稽古を見て聞いて、演出家や役者さんとディスカッションをして、作品全体の世界観やトータルイメージ、それから個々の場面での演技のイメージや演出意図をお互いに共有出来ている状態にしなければなりません。

そして、2回目か3回目の立ち稽古くらいからは、稽古場に機材を持ち込んで、少しずつ音を用意出来たものから順に出して行きます。
稽古で芝居に合わせて音を出してみて、音がその場面に合っているかどうか、役者さんの演技とうまくマッチしているかどうかを、確認して行きます。
音そのものを替えようとか、イメージとしての音は合っているが役者の声の高さにぶつかってしまうからピッチを少し下げようとか、そういうことは稽古場で出して行かないと分からないことです。
これを、「音に稽古をつける」と言います。

昔、もう亡くなられた大女優さんに「効果音は姿の見えない共演者なのよ」と言われたことがあります。
ですから稽古に効果音が欠席する訳にはいかないのです。役者さんが稽古に欠席するのと同じです。
本番までの約2ヶ月間、これが続きます。
結構な長さと結構な回数を、稽古場に日参することになります。
長い稽古の間には、演出が変わり、演技が変わって行きます。
そうすると、はじめのうちはうまく共演出来ていた音が、合わなくなったりしてきます。キッカケや間(ま)を替えたり、音そのものを他のものに替えたりします。

役者さんの演技も、はじめは面白かったものが、稽古を重ねて行くうちにだんだんと面白さが薄れてしまって、替えたりします。そしてまた、替えた演技を、元に戻してみたらやっぱり面白かった、なんてことも珍しくありません。
音も、同じ作業を繰り返して行くのです。
これが、公演における音響さんの本来の仕事です。

音響さんの仕事は、機材を操作して音素材を再生することではありません。それはただの手段です。
手段だけ見て目的を見失っては本末転倒です。
作品世界の音空間をイメージし構築することが「目的」であり、個々の音を現出させ音に演技をさせることが目的を具現化する「手法」です。その具体的な「手段」が、機材を操作して音素材を再生することであり、擬音道具を操って生で効果音を発することであります。

公演における音響さんは、プランニングに際しては演出家であり、実際の音の現出に際しては演者であるということが、これでお分かりいただけると思います。
これが、先に述べた、かつて大女優さんに言われた、「効果音は姿の見えない共演者」につながってくるのです。
音を出すということは、音に芝居をさせる、音を通じて自分が芝居をするということです。

ここまで来れば、台本のト書きに書かれた音や演出家に頼まれた音を調達して再生機器で音を再生しているだけでは音響の仕事は何もしていない、それはただの「御用聞き」だということが、お分かりいただけると思います。
ですから私は、よく言われる「ポン出し」など一度もしたことがありません。
ポンと出して終わっていい音などないからです。
そんな音は作品世界には存在しないのです。

私たちの身の回りにポン出しされた音がありますか?それと同じです。
私は登場人物の上に雨を降らせ、お客さんの頭上に雷を叩き付けたりしますが、雨や雷の効果音素材を「ポン出し」したことなどありません。
こうして改めて我が仕事を説明すると、「効率の悪い大変な仕事ですね」と言われたりします。
それは確かにそう思われるだろうな、と苦笑してしまいます。
私たちが行っているのは、「作品創り」なのです。「製品造り」ではないのです。

製品を造るなら、コストパフォーマンスや効率を考えるでしょう。でも、作品を創造するのに効率やコストパフォーマンスを気に病むなら作品創りなどに手を出さない方がいいというものです。
創造とは、そういうものです。
今回の下北沢での公演も、音を通じて、役者さんたちと心を通い合わせることができた局面がいくつもありました。演出家からも、音で世界が構築された、と喜んでもらえました。

これからも、手間ひまかかるこのやり方を、これが本来の公演における音響の仕事なんだよと、若い世代に見せて伝えて行こうと思います。


(石丸耕一 音響演出家 www.lunadfuego.com)


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