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  人を斬る音の話の3回目です。

前回までは音色を決めて作り込んでいくプロセスをお話いたしました。
その作った音をどこでどう聴かせるか、というのがもう一つの課題です。
最近、のべつ幕無し全てのアクションの一手一手に全部音を付ける公演を多く見かけます。

アクションシーンの始めから終わりまでずーっと、ヒュンヒュン、ビシュビシュ、バシッバシッ、爆発爆発、カミナリカミナリカミナリ、とても賑やかです。
まるで舞台上でアニメを観ているようです。
そんなに俳優のアクションに自信がないのでしょうか。それなら殺陣やアクションの場面など用意しなければいいのです。

初めの二手三手はお客さんも面白がってくれるでしょう。でもそれは、作品を面白がってくれている訳ではありません。こけおどしを面白がっているだけのことです。遊園地の見せ物小屋と一緒です。
ですからそんなアクションシーンが数分続くとお客さんはすぐに飽きてしまいます。そんな場面が一本の舞台で何回かあるとウンザリしてしまいます。

子供向けのヒーローショーなどは理解できます。観客の子供たちはテレビの中の世界を生で体験する興奮を味わっているのです。ですからテレビの中で使われている効果音と同じ効果音でないと、とたんに違和感を訴え、ステージの上から心が離れてしまいます。
それは、テレビで人気の時代劇が舞台で上演される場合も同じです。テレビと同じ俳優さんがテレビと同じ役柄で同じ殺陣のアクションをして、そこにテレビと同じ効果音を付けてはじめて完成し満足してもらえます。テレビの時代劇の舞台公演は子供のヒーローショーと同じです。

先月、先々月とお話してきた「瞼の母」での番場の忠太郎の「人を斬る音」は、単にアクションの擬音ではなく、台詞では語られない忠太郎の人格の側面を端的に表現する一つのシンボル、として創り上げたものです。
ですから、創ると決めた時点で、最小限に留めた使い方をするということも演出家と相談していました。

私としては、冒頭の立ち廻りでの忠太郎の最初の一太刀と、大詰めの立ち廻りの最後のとどめの一閃、それだけで十分と思っていましたが、演出家から作品の真ん中あたりでどうしてももう一発欲しいと頼まれ、結局合計三発、出すことになりました。

さて、劇場に入っての舞台稽古の日になりました。
照明さんは稽古場でも私の出す効果音を聴いていますが、稽古場で聴いていた音が、劇場に入って舞台稽古で改めて聴くと、同じ音でも印象が違う、ということは当然のことです。
どこから聴こえてくるのか、どのように鳴ってどう響かせるかが音響プランの要です。音をスピーカから出すのが音響プランではありません。

照明さんが音響のプランナー席にいる私のところへやって来て、
「石丸さん、斬る音って、今の感じで鳴らすの?」と訊いてきます。「その予定です」と答えると、
「うーん、そっかー、そう来るかー」と言いながら照明のプランナー席に戻って行き、やおらインカムで照明スタッフに「おい、プラン変えるぞー」。

こういう経験は過去に何回もあります。こちらの効果音の音色に呼応して照明さんが舞台稽古になってプランを変えると言った時、何だかキャッチボールが出来たと感じられ、嬉しく思うのです。
そして、変更された照明プランを観て今度はこっちが「うおぉ、カッコイイ」と感嘆の声を上げることになるのです。

初日を迎え、私にはある確信がありました。これは、稽古場で「斬る音」を、全部で三回しか鳴らさないと決めた時からの確信なのですが、終演後、ロビーにてお客様方が、
「立ち廻りすごかったねー」と話している中に、
「斬ってる音も迫力だったね、いっぱい鳴ってて」と言っているのを度々耳にし、確信が当たったと嬉しく思いました。

つまり、たった三回しか出していない「斬る音」が、全てのアクションについていたと感じているのです。これこそが私の狙いでした。
若駒の会の方の殺陣が素晴らしいからこそ、冒頭の立ち廻りの一太刀にしか付けなかった「斬る音」を、お客様は自分たちの頭の中で、想像で、その後の全てのアクションに付けてイメージの中で聴いていたのです。それに応えられる音を作るというのが狙いだった訳です。

「斬る音」のような類いの効果音は、テレビアニメのように動きの一つ一つに全部つけなくても、きちんと演出され作られた音であれば、そして俳優が素晴らしい演技をすれば、お客様には想像力があるのだから、想像力を刺激してあげさえすれば、あとはお客様の方で自由にアクションに頭の中のイメージで音を付けてくれる。こちらで全部音を付けるのは説明過多になる。
これが「人を斬る音」を出す時の、私なりの音響演出です。

それにしても、若駒の会の方の殺陣は、本当にカッコよかったなぁ。思わず音を作りたくなるようなカッコ良さでした。


(石丸耕一 音響演出家 www.lunadfuego.com)


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