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 舞台公演での本番オペレート環境に、DJ1800というソフトウェアを使用するようになって、既に3年が経過しました。

 これは有料のオンラインソフトで、このソフトウェアだけでは舞台公演での生本番のオペレートには不便で使えません。私が長年親しくさせて頂いている、エスイーシステムの山本能久氏が、このソフトウェア専用のコントローラとアウトデバイスを開発し、これによって初めて本番オペレート環境は、CDもMDも超えた、それ以前の再生機器の主流であったオープンデッキをも凌駕することが出来るようになったのです。

 さてではその次は、10年後はどうなっているかという話を夢想しますと、もう再生機器というものが存在しない、再生機器レスの時代になっているでしょう。一般社会で現在主流となっている、iPodに代表される再生機器は、再生機器ではなくコンピュータの端末です。再生機器として独立した製品は、もはやなくなっていくのでしょう。

 全国高校演劇コンクールの打ち合わせの席で、出場する高校の学生達から「音素材がiPodに入っているのですが」という質問が幾つかありました。
つまり世の中はそのように流れ、CDやMDは退場していっているということです。むろん、それら端末プレーヤは、プレーヤ機能においては音を圧縮しているので、非圧縮の高音質で記録されたファイル形式に直して、端末プレーヤをモバイルハードディスク、モバイルメモリとして劇場に持ち込むことになります。そうすると劇場側では、それを受け入れる方法を考えねばなりません。

 DJ用の機器では、既に携帯オーディオ端末を挿入してライン出力で取り出せるタイプのものが多数あります。しかしこれでは平置きでスペースファクターが効率悪く、ラックマウントしても収まりが悪く、劇場での生本番再生環境には適していません。また、携帯オーディオ端末から直接ライン出力を取り出す変換ケーブルも登場しています。しかしこれとても、携帯オーディオ端末そのものの操作性が、生本番再生オペレートに適したものではありません。

 こうなると、ミキサーの内部に音素材のファイルを受け入れるメモリを内蔵させておき、持ち込まれた音素材はミキサーに取り込んで、ミキサーのシーン制御で、例えばシーン何番では、メモリの中のどの音ファイルがどのフェーダーに貼り付けられる、ということを記録して本番オペレートを行う、ということにすれば、再生機器の再生操作から完全に開放されることになります。

 この話は、実は1991年の、日本音響家協会の会報にて私が書かせて頂いたことなのです。あれから17年経ちましたが、予想していた未来の半分くらいまでしか来ていません。しかし、予想の半分は達した訳です。私はその時の文に、こう記しています。

「今までは磁気テープなどに音を記録して運んでいた。重要なのは記録されている音であって磁気テープではない。音は今後データ化されて、通信でやりとりされたり、コンピュータから直接再生されたりするようになるだろう。そしていずれは、デジタル化された音響調整卓に内蔵された音のデータバンクから音が再生されるようになり、再生機器レス環境ができるようになるだろう。(原文要約)」

 これをキッカケに、先に述べた山本能久氏と意気投合し、共にコンピュータでの生本番再生環境の試行錯誤を始めることとなったのですが、同時にこれをキッカケに、私は随分と揶揄されました。
曰く「石丸の言うことは10年早いんだ」「10年経ったら言えよ」等々。

 私は預言者ではありません。10年後にはこうなっているだろう、こうなっていてほしい、と考えたら、10年後に本当にそうなっているために、今日から、今この時この場から、始めなければならない、動き出さなければならないことがあります。今日から動き出さなければ、10年経っても10年前の今日と同じままです。1995年から1997年にかけて、私と山本能久氏は、業界みんなが使えるフリーソフトウェアの生本番再生ソフトを、10年後の為に開発を始めようと、業界に呼びかけました。

 答えは「時期尚早」。またしても例の揶揄が聞こえてきました。
じゃあいいよ、我々だけでやるよ、と試行錯誤を重ねて、やっぱり10年後の2005年、先に述べたDJ1800の生本番再生システムが山本能久氏の尽力で完成したのです。やっぱり10年かかるんです。

 一昨年、私の元に、「業界みんなが使えるフリーソフトウェアの生本番再生ソフトを紹介して下さい、もしくは開発することはできませんか」という問い合わせがありました。「時期尚早」とかつて揶揄された私がお答えできるのは、「機を逸しましたね」ということだけです。そんな話は10年前に済ませているのです。今は、次の10年をどうするのか、10年後にどうなっていて欲しいのか、その為に今日から今からやるべきことは何なのか、私の目はもうその先に向いているのです。


(石丸耕一 音響演出家 www.lunadfuego.com)


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