otowa.gif

 先月の続きです。
フランスは日本と違って大陸の一部ですが、日本と同じく古い歴史を持っています。ケルト文化としてよく知られているその古代から続く文化は、ヨーロッパがローマ帝国の領土になる前から在って、フランス西部からイギリスまで広がっていました。

 他の国は、例えばイギリスは、その後ノルマン人、次いでサクソン人と、先月の言い方を用いれば「チェンジ」していった訳ですが、フランスに関しては、現在に至るまで途切れることなく、ノルマンディーやブルターニュに古代からのケルト文化が根付いているといいます。
フランス人はその理由を、「森」と言います。

 古代から中世において、フランス北西部に広がる森は、他者の侵略・侵入を阻み、それが結果として古代からの伝統文化を途切れさせずに継承してこれたということです。日本が海に囲まれていたために他国の侵略を受けたことがなく、文化や宗教が入ってくる時も、新しいものが古いものに「チェンジ」するのではなく「ミックス」「フュージョン」していったように、フランスにとってはつまり森が、日本にとっての海の役割を果たした、ということです。

 今でもノルマンディーやブルターニュの古い町のそばには、「魔法の森」と近隣の人々が呼びあう森があって、その中では伝統的なケルト文化が継承されているそうです。週末になると人々は、自分たちが住んでいる街の近くにある「魔法の森」へ出かけ、ケルト文化がそのまま現代に伝承された習慣や遊び、楽しみを満喫するのだそうです。

 日本の古代宗教と同じ多神教だった古代宗教をベースにしたアミニズム、ケルト文化は、例えばハーブや薬草を使った料理や医学、香水、染め物、音楽、木の上に家を作って暮らす生活、話を聴いているとわくわくしてきます。そしてたくさんの、働き者の神様がいます。日本と全く同じです。
この場合の神様というのは、ゴッドというよりはスピリッツに近いのかもしれません。

 絶大な存在というのではなく、姿は見えないけれどいつもそばにいて、一緒に暮らしている存在、そういう神様の在り方は、フランス北西部に残るケルト文化も、日本人のベースに根付いている八百万の神々の信仰文化も同じです。ですから、互いに理解し合え、共感し合えるところがあるのでしょう。

 中近東で生まれた新興宗教、キリスト教がヨーロッパ大陸に広まる過程で、古代ヨーロッパの宗教文化を取り込んでいくことで、独特のヨーロッパ文化が生まれていきました。クリスマスの習慣は正にその代表格ですが、しかしその在りようは、フュージョン、共存というよりは、吸収合併のようです。
しかし、前述の、日本における海、フランスにおける森、つまり外来文化の急激な浸透を阻む緩衝材が崩される時が来ます。20世紀前半からの交通手段の進歩、そして20世紀後半からの通信手段の進歩です。
そこから現代までの世の中の変化については、私がここで申し上げるまでもなく皆様がよくご存知です。

 私はここで、この急激な右肩上がりの変化のスピードの上昇に注目します。エジプトの古代王朝からキリストの誕生まで三千年かかっています。そしてキリストの誕生から現代までが二千年。キリスト誕生から現代までよりも、エジプト古代王朝からキリスト誕生までの方が長いのです。
20世紀のたった100年間での世の中の変化は、それまでの数千年分に相当します。しかし既に数千年分の蓄積を重ねてきた文化とアイデンティティーが、この変化のスピードと急激さに、軋みの音を上げていると感じるのです。

 長い時間をかけて私達のDNAに記録されてきた先祖の記憶。その記憶データの書き換えが、世の中の変化のスピードについて行けてない、自分たちで行っている変化のスピードに自分たち自身のDNAがついて行けてないのではないでしょうか。

 自分を見失うとか、自我の喪失とか、自分探しの旅に出たいとか、癒しが流行るとか、最近の社会の事象は、自分たちが行っている時代の急速な変化に、自分たち自身のDNAのデータ上書きが追いついていないことからのバグ、或いはデバッグ作業なのかもしれません。
そしてそれが過激な揺り戻し、攻撃的な顕れ方をするのが、20世紀末の冷戦終了後に沸き起こった民族運動や宗教戦争なのかもしれません。

 一日の仕事が終わったら、月を見上げ、夜の闇に目を凝らし、休日には山や森に行ってみましょう。私達の祖先が神、精霊、妖精と呼んでいた、形にならない気配に、何とも言えない安らぎや癒しを感じるかもしれません。
それは、私達の祖先からの、DNAに記憶された、「人間の想い出」のメタファーなのです。

それにしても、フランスの「魔法の森」。
現実にフランス北西部のそこかしこにあるというのは、何とも抗いがたい魅惑ですね。


(石丸耕一 音響演出家 www.lunadfuego.com)


backnext
OTOWAYA home