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 フランスのTVに出演しました。
以前、ドイツ国営放送に数日間密着取材された時もそうでしたが、外国のテレビ局に取材されても、それが放送されるのはヨーロッパなので、私が自分で自分を観ることができません。これはとても妙な気分です。
まして、私は日本語で話しています。そこにフランス語やドイツ語でテロップがつくのでしょう。どんな映像になっているんだか是非観てみたいと思うのです。
そしてその映像が流れている国々には、私の知り合いも含めて多くの日本人が住んでいます。彼らはそれを観てどう思うのでしょう。彼らは私の日本語をネイティヴで聴き取りながら、テロップの意訳とのギャップを笑いながら楽しむのでしょうか。何だかとても照れ臭い、恥ずかしい思いです。

 今回の取材のテーマは、日本のモダンとトラディションのあいだ、ということで、現代と伝統の両方に足をかけている人々に、そのギャップを(良いギャップも悪いギャップも含めて)話を訊く、というものでした。私が歌舞伎や能、日舞などの伝統芸能の舞台音響に携わりつつ、一方でミュージカルやオペラも手がけ、最新の技術と伝統の演出とを両方語れるだろう、という、甚だ買いかぶられた理由で選ばれたようです。

 収録は数時間で済みましたが、結構喋らされました。そしてその殆どが音響とは関係のないことで、とても楽しかったです。
特に印象に残ったのは、日本人は働きすぎだということについて話が及んだときの私の意見が、フランス人にとてもすんなりと理解してもらえたということで、それは何故なのかということを知ることで、私もフランスのことをより良く知ることが出来たということです。

 キリスト教世界にとって労働とは、アダムとイブがエデンの園から追放されて以来の、神に与えられた罰です。正に苦役、労働から開放されて働かなくていい状態が天国です。一方日本は、欧米から仏教の国と思われがちですが、それ以前からの八百万の神々への信仰が共存している国です。その八百万の神々は皆、仕事を持っています。

 日本では古来より、神様からして働くのです。ここが欧米との大きな違いです。ですから日本人の伝統的メンタリティーとして、労働が喜び、死ぬまで働きたいという老人が多く、働き者であることが美徳で神様に近づく行為だという思いがあります。その象徴的な例として、私達の仕事を振り返っても、「神業」「神の手を持つ」といった称賛の言葉は、職業的技能について使われることが殆どです。つまり、労働に於いて技能を研鑽することは、単に労働効率を上げるということにとどまらず、技能の研鑽が神に近づく道だという考え方なのです。

 労働は単に職業ではなく賃金や食料を代価として得る手段にとどまらず、修業であり研鑽であり精進でもあるのが日本人なのです。しかしここで大きな疑問が生まれます。キリスト教や仏教、イスラム教といった新興宗教が生まれる前には、世界中に原始宗教と言いますか古代宗教がありました。そしてその殆どが日本と同じ多神教でした。

 新興宗教の登場によって、殆どの国はキリスト教や仏教などに「チェンジ」していきました。それはアジアに於いても同じです。では何故日本は仏教に「チェンジ」せず「共存」或いは「フュージョン」していったのか。ここを考えることが、日本という国の、文化やアイデンティティーの特異性、欧米やアジアの他の国とも違う、世界でも非常に珍しい国であることを理解する鍵となると思うのです。そしてそれはまた、戦後の日本の文化的アイデンティティー的崩壊を理解する鍵でもあると思うのです。

日本は海に囲まれ孤立した立地条件で、他国の侵略の心配がなく実際に一度も侵略された事がありません。また温暖で雨量も多く四季が均等で、水や食料に悩まされる心配もありませんでした。
このような土壌では、海の外から文字や宗教が入ってきても、少しずつゆっくりと導入されていきます。そして、外から来た新しいものが、既にそこにあった古いものに「取って代わる」、つまりチェンジすることを選ばず、「混ざっていく」つまり共存したりフュージョンしたりすることを選ぶのです。
何故なら、その新しいものがなければ絶滅の危機に瀕するという事もないからです。そんな心配のない立地条件なのです。
ですから日本人は、急激な変化を好みません。
少しずつゆっくりと、馴染みながら馴染ませながら変わっていくことを好むのです。

 日本で歴史上、革命が起こったことがないのもそういう理由からでしょう。大化の改新も明治維新もクーデターであって革命ではありません。
こういう話をフランス人は、面白がりながらも非常によく理解します。それが私には驚きであり、何故そうなのかを知ることで、日本とフランスの思わぬ共通点を知り、フランスという国への理解を深めることが出来るのです。

このお話、次号に続きます。


(石丸耕一 音響演出家 www.lunadfuego.com)


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