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 私たちが普段日常的に使っているマイクロホン。
分類の仕方は様々です。ダイナミックか、コンデンサか。単一指向なのか双指向なのか無指向なのか。有線なのかワイヤレスなのか。
皆様のお仕事のジャンル、フィールドによって、分類の仕方、選択の仕方はいろいろおありのことと思います。しかしながらこのマイクロホン、マイクを向ける先の人間は、音のプロではありません。

 音楽のプロだったり、演技のプロだったり、話すプロだったりしますが、音響のプロではありません。ましてそれが、普通の一般の方だったり、波や風や雨の音、港や空港や街頭や工事現場の音が対象だったりすれば、なおさらのことです。そう考えてみると、マイクロホンというのは、空気の振動を電気の信号に変換する電気音響の入り口部分であると共に、一般の世の中とプロ音響のインターフェースと考えることも出来ます。

 音響のプロではない方々が、自分の目の前に置かれた、或いは自分に向けられたマイクロホンを、どんな思いで見つめているのか。心の中でどんな分類をしているのか。そこに想いを馳せるのは決して無駄なことではありません。「こちらでちゃんとやるから黙って任せとけばいいんだ」という態度は音響としてあまりにも資質が欠落していると言えるでしょう。あなたが病院に行って、自分の回りに様々な器具が並べられ、あなたが「これは何ですか?」と質問したとしましょう。医者が上記のような返答をしたら、あなたはその医者をどう思いますか?それと同じです。

 一般の方々、音響のプロでない方々がマイクロホンを分類する時に、かなり大きなウェイトをしめる、しかし私たち音響のプロにとっては殆ど意識の中に無い分類の方法があります。
カッコイイか、カッコよくないか、です。


 ソロギター、というジャンルが最近人気で、そのSRを頼まれました。
右手と左手の両方を使ってメロディーも伴奏もリズムも一人で演奏してしまう、あたかも複数のギターが合奏しているかのように聞こえる演奏法で、そのためマイクロホンは、ギターのボディ狙いとネック狙いの2本が必要です。そのマイクロホンに、EV/Blueのカーディナルというコンデンサのマイクロホンを試しに使ってみました。

 音質に限って話をすれば、このマイクロホンに限らずEVのマイクロホンは全体に近接効果が抑えられていて、それに違和感を覚えたり敬遠をする同業者もいますが、私は素直な音のマイクロホンとして結構よく使っています。マイクロホンに良いも悪いもなく、ケースバイケースです。

 今回はアコースティックの素直な音を忠実に届けるというSRコンセプトにとてもよくマッチしたマイクロホンだったと想います。
ところが。ビジュアルがとても良いのです。丸いクラシカルなデザイン、木でできたボディに赤い塗装、まずミュージシャンとマネージャーさんが目が釘付けです。

「これ何?」

「どこのマイク?何て言うの?」

矢継ぎ早の質問。根掘り葉掘り訊かれました。
こうなると初対面のミュージシャンでもコミュニケーションはバッチリです。そして開場すると、ほの暗いステージに一条のスポットライト、その中にそのマイクロホンとギターと椅子。丸い真っ赤なボディとクラシカルなスタイルがお客様の目を引きます。

「あれマイク?」

「マイクだよね」

「かわいー!」

「なんかオシャレだよね」

「カッコイー」

なんとなくざわめく場内。自分の座席に荷物を置いてからステージ前まで来てしげしげとマイクロホンを見ている人たちがずいぶんいました。そしてまもなく開演、という時にマネージャーさんが来て、

「今日はステージ写真たくさん撮らせていただきますよ。いやぁあのマイク、絵になるなぁ。フォトジェニックだよね。」

 いかがですか皆さん。カッコイイって大事です。
何といってもマイクロホンは、出演者と共にスポットを浴び、出演者と共に観客の目にさらされ、出演者と共に中継収録のカメラにズームで寄られてアップになって撮られる、言ってみればマイクロホンも出演者です。カッコイイに越したことはありません。音質以外のプラスアルファがライヴ全体に影響して、それが回り回って音質も良くなっていく。

 マイクの前で歌ったり演奏したり喋ったり演技したりするのは音響のプロではないのですから、その人たちがそのマイクを気に入り、そのマイクの前でパフォーマンスすることを喜びと思ってくれて、それがひいては良いパフォーマンスを引き出せるのなら、カッコイイというのは、そのマイクロホンの性能です。

(石丸耕一 音響演出家 www.lunadfuego.com)


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