otowa.gif

 前回からの、システムチューナのお話の続きです。

 私が懇意にしているシステムチューナさんの実際の現場でのお話をすることで、その中からシステムチューナの姿、大切さが浮き上がってくれば、というところで、前回からの続きになる訳ですが。


 まずお一方目。仮にAさんとしておきましょう。

 私とは長年の付き合いで、私が手がける公演に出掛けてきて貰って、仮設のスピーカシステムのシステムチューニングを依頼したりしています。

 この方の場合は、私との付き合いの長さから、私がどういう響き、どういう音色を好むか、熟知して下さっています。ですから、それに沿ってシステムチューニングを施して下さいます。

 このAさん、いつも決まって2パターンのセッティングを用意します。ご本人は「いやぁ、保険です、保険。」とご謙遜なさいますが、搬入・仕込みから始まって、稽古場から私が到着するまでの短時間でよく2パターンもチューニングできるものだ、と感心してしまいます。

 そのAさんの現場での言い方を真似てみますと、 「石丸さん、例によって2パターンのチューニングを作ってみました。一つ目は非常に素直な、ニュートラルな感じです。悪く言えば面白みがない。もう一つは、すンごい暴れ馬みたいなチューニングです。でもきっと石丸さん好みだと思います。」

 では聴かせていただきましょう、と2つのチューニングパターンを聴かせてもらって、言われた通り、後者が私のストライクど真ん中。後者でいきましょう、と言うと、Aさんニヤッと笑って「そうおっしゃると思った。」こういう時のAさんは、嬉しそうな、会心の笑み、してやったり、という笑顔です。こちらも負けずに「あ〜あ、Aさんには俺の好みが全部バレてるなぁ〜」と言います。そういう会話ができるのが嬉しくてたまりませんし、これがAさんへの最大の謝辞です。Aさんもそれをよく分かっていて下さいます。


 もうお一方。こちらはBさんとお呼びしましょう。

 この方は、元々オペレータだった方です。ですからシステムチューニングの際に、その経験が最大限に活かされています。

 私がチューニングをお願いすると、その公演の音の傾向についてディスカッションしに稽古場まで出向いてきて下さいます。そしてその公演がストレートプレイなのかミュージカルなのか、使用する音楽の傾向がロック調なのかジャズなのかストリングス系なのかフルオーケストラなのか、劇場入りする前に稽古場で音を聴いて行きます。

 その上で、仕込みの際に、その公演の音に一番相性の良いチューニングを、Bさんの現場での経験の蓄積から「こんな感じだろう」と施しておきます。それを私の求めるチューニングの近似値として「当たりをつけておいて」あとは私が聴いて少々の微調整をしてもらう、という仕事の進め方です。

 ですから作業がとても短時間で済みます。


 このお二人の例から、システムチューナという仕事は、チューニングの理論と技術を体得しているだけでなく、作り手であるデザイナーのボキャブラリーを理解し、イメージを数値化できる能力が必要だ、ということが分かります。

 私も含めたデザイナーという者たちは身勝手なものです。口では一様に「システムチューナの方には、自分たちが思う存分デザインを施せるよう、空間に真っ白なキャンパスを用意して欲しい」と言うのですが、実はその真っ白なキャンパスというのが曲者で、デザイナーごとに求めている真っ白なキャンパスが全然違うのです。

 そのキャンパスは本当の真っ白なのか。やや生成りがかってるのか。キャンパス地なのか。紙なのか。聖堂の壁画を描くような石膏のような白なのか。デザイナーによってみんな違います。それをみんな口では「真っ白なキャンパスを用意して欲しい」と言ってる訳です。冗談じゃないよ、というシステムチューナの方のボヤキが聞こえてきそうです。

 それを受け止めてチューニングを施すシステムチューナの方のご苦労はいかばかりか。私も私のイメージを伝えるときには、デッサン帳を用意して音のイメージの絵を描いて説明することがよくあります。このやり方もまた、システムチューナの方から見れば、「困ったもんだ」と思われているかもしれません。

 ここまでお話してくれば、システムチューナという仕事は、非常に高度で熟練の技術を必要とする、誰かが兼ねて片手間にできるような仕事では到底ないのだということがお分かりいただけたかと思います。

 先月号でもお話しましたが、私たちがするべきことは、システムチューナのギャラ、技術料の枠を確立させ、しっかりお金を取ってくる、そこにこそ労力をかけるべきなのです。

 技術はただではありません。他の人の技術を尊重せず、お金を払うことを惜しめば、必ず自分の技術も低く安く叩かれます。

(石丸耕一 音響演出家 www.lunadfuego.com)


backnext
OTOWAYA home