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 効果音については、このエッセイにて今まで幾度となくお話をさせていただいて参りました。

 先日、日本音響家協会が主催なさる効果音のセミナーにて、実演と講義の依頼をいただき、私ごときが僭越ではありましたが、お声をかけていただいたのを光栄に思い、精一杯務めて参りました。

 他にも、専門学校や地方の自治体が主催するセミナーにて、効果音についての講義と実演を頼まれることが増えて来ました。これらについても、時間の許す限りお受けして、全国どこへでもお伺いしています。

 今、この時代このタイミングに、それをしなければならない、しなければ大変なことになる、という危機感、切迫感が私の中にあるからです。

 効果音を作るという行為は、その音を「演じる」ことに他ならず、これは音響の仕事が演出であり、プレイヤーであり演者であるという最も端的な例である、というのが私の持論であります。

 ですから、音響の仕事の中でも効果音を作るという行為は、音響というものの本質、そのコアの部分に最も近い要素の一つである、と私は考えています。

 この、効果音を作るという作業或いは行為には、技術やマテリアルの進歩こそあれ、流行り廃りも変質もありません。音をイメージする。そしてイメージした音に目の前の音を近づけていく。この、イメージとクリエイトの無限の反復作業が効果音作りなのであり、これはミュージシャンが楽器の演奏の練習を繰り返すのや、歌手が歌の練習を、俳優が演技の練習を繰り返すのと何ら変わるところはありません。

 そういう、音響というものの本質、コアの部分の一つである効果音が、きちんと伝承されず断絶の危機に瀕している現状は、とても憂うべき事態であり、またこの事態は、結構急を要する事態だろうと思うのです。

 回りを見渡しても、舞台・演劇の世界でさえ、自分で効果音を作らなくなった、有り物の他人が作った効果音だけで仕事をして平気でいられる、という人間が大半を占めるようになってしまいました。めまいがしそうです。効果音はオーダーメイドが基本、と言われて育った私たちは、こうまで変わり果てた現状に呆然とするのみです。

 恐らくは映画の世界くらいでしょうか、今でもきちんとやっていらっしゃるのは。

 団塊の世代の大量リタイアが世間で話題になっています。熟練の技術者がいなくなり、技術がきちんと伝承されていないからです。音響の世界も同じです。

 伝承が途絶えたのは単純にして明快な理由があります。技術にお金を払うことをこの国が渋った時期があったからです。

 皆様もご記憶にあるでしょう。バブルの時代です。

 国土も狭く資源もないこの国が生き残れる唯一の手段が、勤勉で誠実な国民性と高い技術力でした。

 バブルの前の時代、人々が必死で働き、技術力を高めていった時代があったからこそ、あの昭和元禄と呼ばれたバブルの時代が迎えられたのです。

 それを忘れて最近、バック・トゥ・バブルなどと馬鹿げたことを言う人がいますが、バブルの時代に、それまでの私たちの先人の蓄えてくれた財産、それは単に財力だけの問題ではなく、技術力や勤勉の美徳なども、みんな消費しきってしまいました。

 もう、残高は底をついたのです。

 まじめにコツコツやる人を笑い、技術料を値引きされ、利益再優先、これで職人やエンジニアが生き残れる訳がありません。それがバブルの時代だったのではなかったでしょうか。

 バブルの時代のような華やかな景気を迎えたければ、その前の、財力や技術力などの底力を蓄えていた時代を今再び蘇らせなければ無理です。それなしに上っ面だけ好景気にするのは、泥沼に杭を打つのと同じです。

 今やるべきことは二つあります。

 一つは技術職の地位向上。

 もう一つが、今回冒頭でお話した、伝承を断絶させない努力です。

 私の義弟はフランス人ですが、フランスには、アーティストという言葉に対して、芸術的分野での技術職を、アルチザンという言葉で、ステイタスと収入の保証・向上を行ってきた長い歴史があります。

 この国でもそのようになって欲しいのですが、地位の保証・向上の確率をいくら待っていても当分変わりそうにありません。待っている間に絶滅してしまいます。
それを防ぐための、伝承です。

 受け継ぎ伝えるべきものは、表面的なテクニックではありません。勿論実演でそれを見せたり体験してもらったりしますが、そこから、先人の苦労とセンスを受け取るのです。具体的にお話したらそれこそ2日間がかりのセミナーになってしまうのでここでは省きますが、技術の発達していない時代、電気のない時代に、私たちの先人が、センスのひらめきで勝負をしていた、そのセンスを受け継いで現代に活かしたら、どれだけ素晴しい音が創り出せるでしょう。それをやってはじめて私たちは、先人を超えることができ、胸を張って次代に継いで行くことができるのです。

 この効果音の話、次回に続きます。

(石丸耕一 音響演出家 www.lunadfuego.com)


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