otowa.gif

 エンジニアの仕事は割に合わない、と就職を渋る若い世代が多くなったと言われて約15年。そのあおりをくらって、30代や20代後半に有力な人材や高いモチベーションを持った人材が育っていないまま、団塊の世代の大量リタイアを迎えています。

 40代の私たちにとっては、これからの10年は悲惨を極めることになるだろうという未来が窺えて、暗澹たる気分です。

 舞台やコンサートでの事故が多発する昨今をどう思うのか、どうしたらいいのかを話し合う諮問会議とやらに意見を求められました。皆さん「安全を確保する保安装備を」とか「現場での意識の徹底」とかおっしゃってましたが、最前線の戦場から呼ばれた私としては「払うべき金を払わず、下請けになすりつけて逃げるのをやめれば改善される」と言い放ち、その場を凍り付かせて引き上げて参りました。

 結局なんにも改善されません。「困ったもんだ」ともっともらしく困ったふりをしてみせている人たちが、出すものは出したくない責任は取りたくない、困ったふりして問題を解決しようとしているふりだけして責任逃れしよう、自分たちはこんなに問題意識を持ってやってますよ、というポーズだけ取っておこう、ということです。

 対岸の火事ですが昨今のテレビ界の不祥事続きも根っこは全く同じでしょう。お金はどんどん値切られる仕事は増える、責任は負わされる、そして不祥事を起こすのは制作であって技術ではない。でも技術も一緒に悪く言われる。エンジニアは割に会わない、と若い人が思うのも当然です。

 戦火はますます激しくなり、援軍は来ない、補給は減らされる一方、要求は厳しくなる一方、責任は取らされるノクリント・イーストウッド監督の話題作「硫黄島からの手紙」は、下請け現場責任者が泣ける映画だ、と言えましょう。そう言えば更なる観客動員が見込めるのではないでしょうか。

 この状態で私たち40代は、かれこれ20年以上ずっと「若手」をやらされています。
 伝統芸能の世界では「50、60は洟垂れ小僧」という言葉がありますが、これはまるで意味が違います。

 この場合の「50、60は洟垂れ小僧」は、一生修行だという意味です。幾つになっても勉強することはあり、新しい発見があるということであり、それは私も心底痛感しています。全くその通りだと思うのです。

 だからこそ、飲み屋で業界の50代60代の先輩が酔っ払って、30代20代の人材不足のおかげで40代が苦労している問題を「まー40代はまだまだ洟垂れ小僧、修行なんだよ」とくだまいて言うのを聞くと、「言うに事欠いてその言葉を引用に使うとは何事だ」と頭に来て、そこにある中ジョッキで殴ってやろうか、という衝動にかられるのです。

 今40代の私たちは、今50代60代の人たちが40代だったころの収入も権限も得ていません。上はつっかえて下はスカスカ。このまんまじゃ本当にまずい、という焦燥感と、こりゃもうダメだ、という諦めの気持ち。こういった空気が流れています。

 不思議なもので、今70代80代の大先輩の方々の方が、現状の危機をよく理解なさっていて、的確な助言を下さいます。そういう方々には本当に頭が下がります。

 若い世代がこの仕事に就きたいと思うには、この仕事へのモチベーションと、この仕事自身のステイタスアップです。ステイタスは、地位と収入の両方です。

 これすらも、もう10年ちかく言われ続けて来たことです。このエッセイでも何度となくお話して来たことです。

 モチベーションを持ってもらう努力は、私たちの個人レベルの努力である程度は何とかなります。一人一人の努力の集合としての大きな結果に結びつけることが出来ます。

 しかし、ステイタスのアップは個人レベルでやれることに限りがあります。
 業界全体を網羅する組織で取り組まなければステイタスアップは望めません。

 ステイタスアップの方法のひとつとして、ライセンスの問題、ロイヤリティーの問題などが今までにも提示されて来ました。方法は他にもあるでしょうが、この二つも重要で有効な方法だと思います。しかし難しい問題で、今までにも何度も多くの人によって議論が重ねられて来ましたが、道筋は未だ出来ていません。

 最前線の戦場にいる身としては、もうそろそろ、後方の司令本部には、前線の現状を把握してもらって、本腰を入れた全面的な作戦を立ててもらいたいと切実に願います。でないと本当に戦線を保ちきれません。

 古参兵が大量に去り、少数の新兵が配属され、最新の機材が渡される代わりに人数を減らされ、おまけに給料も減る。これで従来の倍の戦果を上げろと言う。決定権はないが責任は取らされる。こう聞いて、おかしいと思いませんか?私はおかしいと思うんですが。

 この前線からの手紙、ちゃんと後方の司令部に届くんでしょうか。

(石丸耕一 音響演出家 www.lunadfuego.com)


backnext
OTOWAYA home