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 劇場での中継収録については、このエッセイで度々お話してきました。私の勤務する劇場はコンサートホールと劇場が併設されていて、月に10日程は中継車が来ているような有様ですので、色々なトラブルも起きれば、仕事を通じて仲良くなった中継収録の方々もいらっしゃいます。

 このエッセイが始まって10年。中継収録の現場も随分変わりました。

 とは言っても、この10年間の中継収録の技術的な変化については、むしろ本誌の特集ページの方の領分で、私からは、中継収録に携わる人、の部分について、いつも書かせていただいております。  アウトソーシングが進み、先週某BSの収録で来た収録会社が、翌週は某CSの収録で来る、ということは最早珍しくなくなってしまいました。
「どーもどーも、今週も来ちゃいました」
「あれぇ?今週はどこの局よ?」
「○○チャンネルです」
「そっかー、宜しくねー」
という会話が舞台袖や楽屋通路で交わされています。

 こういう方々は私たち収録の受け入れサイドとしては安心です。場数を多くこなしてきたことで、劇場のしきたりや習わし、タブー、消防法などの知識の蓄積が出来ています。

 局からくるのは名刺に制作部と書かれたプロデューサーと名乗る人種で、時々全然何も分かっていない口の聞き方も知らない人間が来てしまって、ひどい時には演出家や俳優を怒らせてしまうこともあり、折角現場の技術の方々が長年かけて築いて来た中継先との信頼関係をぶち壊しにしてしまうことがあります。

 これが現在の、アウトソーシング体制での現場の一番のトラブルの種でしょうか。現場を知らない制作が現場を滅茶苦茶にして、しかも現場サイドは雇われた外注だから文句も言えない、中継の受け入れ先である劇場サイドは制作も技術も一括りにして非協力的になってしまう、という感じです。我々音響は、多少この図式が見えていますが、照明さんや大道具さんはそんなこと知ったこっちゃありません。制作への怒りを外注の技術さんへも「あいつら出入り禁止だ!」とぶつけてしまいます。

 我々劇場の音響は板挟みです。

※劇場にはレコード会社もライヴレコーディングに来ます。最近はCDよりDVDの収録の方が多く、ここでもアウトソーシングが進んでいます。

 レコード会社と録音会社が別会社で、更に映像収録会社がまた別の会社。映像さんと音声さんが全く打ち合わせが出来ておらず、搬入してから電源の取り合いで揉めています。レコード会社のプロデューサーは「技術のことは一任してあるから」と逃げてしまいます。こちらは呆れ果てて、気が済むまで喧嘩してもらうしかありません。

 こういう場合、音声の収録は、ベテランの現場を熟知した会社或いはスタッフが事前に下見打ち合わせにやってきて、回線の取り口、電源やアースの取り方、ブースの設営場所、その他諸々細かく打ち合わせをして、当日は準備万端で来場されます。

 ところが最近、映像担当ですという人たちが、何の打ち合わせもなく当日いきなり入って来て、劇場側に声もかけずに設営を始め、電源や禁止行為でトラブルを起こします。見ると片手で持てるような小型のハイビジョンカメラを多数、明らかに専門学校の学生のような若い子に持たせています。いくら機材がプロとアマの垣根がなくなって来たからと言って、スタッフまでアマチュアになっては仕事にならないでしょう。

 どうも中継収録の若いスタッフは叱られ慣れていないようで、こちらが注意すると激昂します。逆ギレってヤツですね。激昂するならするで最後まで突っ張ればいいのに、ヒグマの様な大道具の棟梁が出て来てナグリを振り上げて雷鳴のような一喝を落とすと途端にシュンとして可哀想がってみせます。どうにも始末に負えません。

 技術以前の人間教育が全然出来ていないのですが、経費削減が至上目的のアウトソーシングは結局、安かろう悪かろうで、スタッフの質の低下が目に余ります。
 高い技術力と豊富な経験には高いギャラが支払われるのは当たり前で、そこを考えずに単に出費のスリム化を図るのは、まるで絶食ダイエットと同じです。
いくら痩せたくても、落としては行けないものまで落としてダイエットしたら死にます。食べる物はちゃんと食べて、本当にいらないものだけ落としてダイエットしないと。

 放送や録音制作にとって、技術は落としてはならない生命線だと思うんですけどねぇ。

 中継収録の現場に関わり続けて10年。残念ながら悲しいかな状況は悪化の一途を辿っていると言わざるを得ません。ハードウェアは確実に進歩しているのに、状況がこうだということは、ハードウェアの進歩は現場の向上に寄与していないということになってしまいます。車がどんなに進歩しても、車は運転手の飲酒運転をとめられないのと一緒です。

 折にふれ、また中継収録のお話をさせていただきます。次は是非、良いお話がしたいものです。


(石丸耕一 音響演出家 www.lunadfuego.com)


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