otowa.gif

 現在の私達の社会、そして日々の個人の生活を見ると、10数年前と現在との間には、「ネットワーク時代以前」と「ネットワーク時代以降」という境界線の線引きがされていることが分かります。ネットワーク時代を迎えて、世の中は、私達の日々の生活は、全く変わってしまいました。

 昨年、日本音響家協会が開催されたネットワーク伝送セミナーに於いて、登壇されたパネラーの方々は、プロ音響の世界の方のみならず、建築の世界の方、都市開発計画の方など、多岐にわたる世界の方々がいらっしゃいましたが、その方々が異口同音に、「通信は本質ではなく本質を助ける利便的なもの」とおっしゃっていた事が、ネットワークというものの本質、ネットワーク時代の中で見誤ってはならないポイントとして強く印象に残りました。

 さてそうしますと、それぞれのジャンル、それぞれの世界で、「どこを助けてもらったら便利になるのか」「どこをネットワークでつなぐと助かるのか」を、自分の回りを見回して考える作業が始まります。例えば医療の世界では、無医村や離島と都市の病院をネットワークでつなぐ「遠隔診療」が導入され始めていることは、皆様も既によく御存知のことでしょう。

 振り返ってプロ音響の世界を見ますと、プロ音響と言いましてもジャンルは多岐にわたり、例えば放送の世界の方々は、お仕事そのものが「伝送」ですから、ネットワークの導入も早く既に当たり前の状態になっています。

 ところが、コンサートや劇場公演など、「ライヴ」の世界では、自分たちの仕事のフィールドを見回してみても、「ネットワークに助けてもらう様な事って何かあるかい?」という感じで、コンサート会場内や劇場内での閉ざされたクローズドなLANは着実に導入されていますが、会場や劇場の外とつなぐWANは、殆ど導入の実例がないのが現状です。

 それはこのジャンルが遅れているなどという事ではなく、このジャンルの正に本質だからなのです。

 生身の出演者と生身の観客が、時間と空間を共有する。これが、コンサートや劇場公演など、「ライヴ」の世界の本質であるのです。ここにネットワークの入り込む余地はありません。

 同時に複数の会場にコンサートの映像と音声を伝送して、同時開催のコンサートが行われていたりしますが、結局のところそれはヴァーチャルであって、生身のライヴのプロモーションでしかなく、お客様は疑似を楽しみながら「ああ、次は生で本物を見たいなぁ」と思いながら帰る訳です。これはライヴの本質に触れているとは言いません。

 また、出来上がったライヴの状態を伝送しても、ネットワークがライヴの世界作りに入ってきたとは言えません。作り上げていく過程の中にネットワークが導入され、それによって上演が可能になったということでなければ、ライヴの本質にネットワークが参入した事にはならないのです。それは先に述べた医療の世界の遠隔診療と比較すればすぐにお分かりいただけると思います。

 逆に言えば、だからこそライヴの世界は、このネットワーク時代に、わざわざ出かけていかなくては得られない、「情報」ではなく「体験」を得る、「疑似」「ヴァーチャル」ではなく「リアル」の場として、その貴重さが、ネットワーク時代以前よりも更に輝きがいや増していると言うことも出来るのです。

 別に必要のないものを無理して導入する事もありません。困っていなければ使わなくてもいいのです。

 ライヴの現場で、LANの導入は進んでもWANの導入が進んでいないのは、そういう背景があるからです。

 今、私達ライヴの世界の人間がやっていることは、日々の仕事の中で、「別に困ってない、これで当たり前、こういうもんだ」と思い込んでいる部分が、実はネットワークを使うことでスゴく便利になったり、激烈に変われるようなことがあるのではないか、と、自分たちの仕事の有り様を、もう一度見回して見直してみる、という作業です。

 これには、ライヴの世界の人間と、ネットワークの専門の人間との、会話の蓄積が必要です。

 ライヴの世界のプロ音響の人間は、音響のプロではあってもネットワークのプロではありませんし、その必要もありませんでした。

 一方ネットワークの専門の方々は、ライヴの世界は全く素人です。当たり前のことです。

 話し合ってみると、まずボキャブラリーが全く違っていて、会話が成立することすら難しい、ということを痛感します。スタートラインからしてそんな有り様です。

 「全てがデータ化された時点で、音も映像も文字も制御信号もすべて平等」
「ネットワークによって劇場・ホールがどう社会に開かれていくのか」

 ここに、突破口があると私は考えているのですが…

 さて、ここまでお話してきて、タイトルにある「宴会」も「蟹」も、まだ全然姿を見せておりません。

 このお話、次号に続きます。

 蟹はどうなる、っていうか何故蟹?


(石丸耕一 音響演出家 www.lunadfuego.com)


backnext
OTOWAYA home