otowa.gif

 効果音を作るお話のシリーズ、今回が3回目です。

 音楽や効果音を、どこにどんな音を入れるか、そしてそれはどこからどういう風に聞こえてくるのかを考えるのが演出家としての音響の要素だとするならば、実際にその音を作るにあたっては、プレイヤー、アクターとしての音響の要素である、というお話を先月までしてきました。

 音響の3要素として、演出家としての要素、プレイヤー・アクターとしての要素、そして最後にその2つを現場レベルで具現化する技術者としての要素、この3つが挙げられます。

 さて。実際に効果音を作るにあたって、私達はマイクの前で、効果音を作る道具を手にして、「演ずる」ことになります。

 傘を使って鳥の羽ばたく音を作ろうとした時。マイクの前でただ傘をバサバサさせても、それは傘をバサつかせる音でしかなく、決して鳥の羽ばたく音にはなってはくれません。

 自分が鳥になったとイメージし、鳥が羽をたたんで止まっているところから、どうやって翼を広げ、どう羽ばたいて飛び立つのか、その時の自分の胸や腕の筋肉はどう動いて、どう目線が変わっていくのか、イメージし、その時の自分の翼の音をイメージします。そのイメージした翼の音と、手で持っている傘が出す音のギャップを縮めていく作業が、クリエイトです。

 イメージしクリエイトする、この無限の反復作業。

 これは俳優の演技法及び演技訓練法と何ら変わる所はありません。

 演じなければ、音は生まれないのです。
効果音を作るということは、その音を演じるということなのです。

 今度はそのクリエイトの部分、いくらイメージしても、うまく音が出せなければ仕方がありません。

 先に述べた鳥の羽ばたく音や、火の燃える音などは、さほど熟練の技が必要という訳ではありません。

 怪獣の鳴き声や稲妻など、オープンテープのスクラッチで作るものは、明確なイメージと多少のテクニックは必要だとしても、結局はそこで出てきた音は偶然の産物だったりします。

 しかし、江戸時代から伝わる鳥笛や虫笛は、ある程度の訓練と技量を必要とします。

 ヒグラシ笛は、初めて手にして吹いてみて、音が出ないという訳ではありません。が、その音はとてもとても、私達がよく時代劇などで耳にする、あの耳慣れたヒグラシの音色には程遠いものです。

 何となくそれっぽいな、というところに至るまでに結構な時間がかかりますし、味わい深い音色になるには、それこそかなりの年月を必要とします。

 ハッキリ申し上げて私のヒグラシ笛の音色もまだまだ若い、師匠の音色には到底かないません。

 トンビ笛は、口にくわえてみて、どうやって吹いたらいいのかも分かりません。まともに使える音色になるまでに3年かかりました。小さい笛のクセに実に細かい細工で作られている笛で、口の部分を噛み割って壊してしまったことがありました。泣く泣く修理して、大切に持ち運びしています。

 他にもウグイス笛、モズ笛、みんな難しいです。観光地のお土産で売っている鳥笛とは訳が違う、そしてやっぱり、上手く吹ければその音色も、断然違う物です。

 赤ん坊笛、ニワトリ笛などになりますと、歌舞伎座で働いていた頃、笛のうまい役者さんの吹く様子を見ていただけで、自分でやったことすらありません。

 何とも面妖な姿の笛で、どうやって吹くのかも分かりません。

 それも当たり前のことで、ここで御紹介している数々の音は、それ専用の笛を吹いて作る音で、言わば演奏です。例えばバイオリンをいきなり手渡されて、さあ弾いてご覧なさいと言われても無理に決まってます。それと同じです。笛という、楽器の一種で、音楽の代わりに鳥や虫の鳴き声を演奏する訳です。バイオリン同様、演奏には練習と習熟が必要です。かなり高度な技術を要する、楽器の演奏、プレイですね。

 音響さんはプレイヤーであるという、正に端的な例だと思いませんか。

 更に進めましょう。今度は笛も使わず、犬や馬の鳴き声を、自分の声で演じるという方法です。

 時代劇などで皆さん聴き馴染んでいる犬の遠吠えなどは、みんな人間が声で演じているものです。

 その道何十年というベテランの名人芸。声色や動物模写とはちょっと違います。声色や動物模写は、動物に似せながらも人間ぽい部分を残す事で味わいや可笑しみを出すんだよ、と亡くなられた江戸屋猫八師匠がおっしゃっていました。声で演じる効果音としての動物は、全く動物になってしまう事が必要です。

 これはアクターとしての要素に他なりません。

 音響さんは電気がなくても、やろうと思えばこんなに沢山やれることがあるんです。電気音響は音響さんの仕事の、ごく一部でしかないんです。

 次回、このシリーズの、まとめのお話をいたしましょう。


(石丸耕一 音響演出家 www.lunadfuego.com)


backnext
OTOWAYA home