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 効果音の話、先月に続いて2回目です。

 先月お話したように、舞台公演で、台本が出来上がって、効果プランを立てるときに、「ここでこういう音を出そう」と決めた時に、その音を生で出すのか、再生機器で再生してスピーカから出すのか、という判別をする、という作業をします。が、判別するのはそれだけではありません。

 その効果音は、本物の音を録音したものを使うのか、それとも擬音で作った音を使うのか。そしてその音はどこから聞こえてくるようにするのか。

 一つの効果音に対して、これだけの判別作業があって、ようやくそこから効果音の制作作業に入る訳です。

 それは舞台に限らず完パケの世界も同じことです。

 この行程が、現在あまりにも安直にすっ飛ばされている現場が多すぎます。

 最近、音響デザイナー、サウンドデザイナーを自称する若い人が増えてきました。しかし、自分で効果音ひとつ作らずにサウンドデザイナーを名乗るのは、私に言わせれば丘サーファーみたいなもんで(うわ、古い言い方をしてしまった、年がバレますね)デザインの核、コアの部分が欠如した、チクワみたいなものだと申し上げておきましょう。

 その理由を御説明いたします。

 以前このエッセイでもお話した通り、舞台音響は電気のない江戸時代から、そのそもそもの本質が立体音響です。劇場は舞台と客席という二つの空間が分かれているのではなく、舞台の奥から客席の後ろまでが一つの空間で、音響はその広い一つの空間に、どんな音のパノラマの絵を描くか、が仕事です。

 つまりこれが、デザインです。

 スピーカがなければ電気がなければ仕事が出来ないというのは、この時点で既に音響さんではない、デザイナーとは名乗れないということが分かります。だって江戸時代はそれでやってたんですから。私は胸を張って、電気のないところでも私の音響としての仕事は幾らでもある、と言えます。

 そしてその空間で、出そうと決めた効果音を、どこからどう聞こえてきて、どう動いてどう消えていくのかをイメージする。これが立体音響です。立体音響とは、サラウンドや2chヴァーチャル、マルチチャンネル再生等も全て包括した総称です。サラウンドはその中の単なる一つの技術仕様でしかありません。

 空間をイメージするという行為が、立体音響そのものなのです。

 例えば、遠くで蝉が鳴いている。これを、単に何も考えず、ベタONの蝉の声をスピーカから小さい音量で出したのでは、デザインも何もありません。

 蝉の声は、笛などで生でやるのか、録音したものをスピーカから出すのか。

 それは擬音なのか本物の蝉の声でいくのか。そして、蝉と、聴いている人間との間にある空間に想いを馳せる。イメージする。

 音を出すのが目的なのではなく、音を出すことによってそこにある空間を表現する。

 それが奥行きのある大きな舞台であれば、敢えてベタONの蝉の声を舞台奥のスピーカから小さい音量で出し、そのスピーカを客席に対してソッポを向かせることで物理的に客席との距離をつくるという手段もありますし、奥行きのない舞台やサラウンドの完パケ作品であるならば、空間をシミュレーションしたエフェクトをかけた蝉の声を出す。つまり最新技術の導入は演出が先に在って初めて行われる訳です。その音と、舞台袖の大道具の陰で吹く蝉の笛とどちらが効果が上がるかを検証する。

 つまりこれが、デザインです。

 自分で効果音を作っていれば、自ずとそこまで見えてきます。しかし他人の作った効果音を使って仕事をしていたんでは、とてもそこまで想いが至ることはありません。口では言えても、行動が伴っていないことが、その人の仕事を見ると一目瞭然です。

 私が先に、丘サーファーだの、チクワだのと言ったのは、つまりそういうことなのです。

 更に話を進めましょう。先にも述べました、効果音を、擬音でいくのか、本物の音を録音して使うのか、という判別についてです。

 舞台の上は虚構の世界です。そこに本物が紛れ込んでくると、虚構がくずれてしまう瞬間が出来てしまいます。

 例えば子役。動物もそうですが、舞台に本物が出てきてしまうとお客様は「まぁ、可愛い〜」となってしまいます。それはその瞬間、作品世界から素に戻ってしまう訳で、お芝居が壊れてしまう訳です。それではただの見せ物小屋になってしまいます。

 本物を使わずに本物以上のリアリティをお客様に感じ取って頂くのが芸の世界、舞台・劇場の世界です。

 それは音響、効果音も全く同じなのです。ですから時として、本物の鳥や虫や犬の声を舞台で出すと、あまりのリアルさと生々しさで、かえって嘘臭く白々しくなってしまうことがあります。

 次回は、その効果音を実際に作る過程のお話をして、音響はプレイヤーでありアクターだという説明をすることに致しましょう。


(石丸耕一 音響演出家 www.lunadfuego.com)


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