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 いろいろと必要に迫られて、このところ効果音を作り溜めているところです。

 効果音は、元になる音をマイクの前で「演じ」て、それをいろいろと加工して作ります。雷の音や竜巻の音も、大元の音が電子音では、「雷らしきノイズ」「竜巻らしきノイズ」でしかなく、舞台の上やスクリーンの中の生身の役者の、肌に音が着陸してくれないのです。音と生身の人間のあいだに、一枚剥離した違和感がでてしまうのです。

 遥か四半世紀前、YAMAHAのDX-7という名機のキーボードが登場しました。この名機の及ぼした影響は大変大きいのですが、その影響の大きさ故に、何でも出来ると思われてしまい、効果音もキーボードで作ればいいという変な風潮が当時起きていました。

 実際には先に述べたように、大元の音が電子音ではダメでして、生音をマイクで収録して、そのあとで如何様にでも加工してもいいが、大元の原音だけはマイクで収録しなければ良い効果音にはならない訳です。

 このことにいち早く気付いたのはハリウッドで、映画の世界で昔からあったフォーリーと呼ばれる擬音のセクションを、キーボードの登場によっても無くすことなく、むしろブラッシュアップして素晴らしく高い水準に上げました。

 竜巻の音を掃除機で作ったり、鳥の羽ばたきを傘で作ったり、こういうノウハウは歴史のある映画会社や舞台音響会社に沢山残っています。ラジオ局やテレビ局は、制作のアウトソーシングが進む過程で、こういうノウハウが伝承されずに消滅してしまったところが多いと聞きますが、誠に残念なことです。それらのノウハウは決して古くさい時代遅れのものではない、ということを、先に述べたようにハリウッドが気付き、音素材のサウンドファイル化とデジタルエフェクトや3D化が進むほど、大元の擬音をマイクの前できちんと「演じる」ことの重要性を知り、それを結果で証明しています。

 翻って我が国の制作状況を見ると、そういうハリウッド作品の音響やサウンドエフェクトのクオリティとこだわりに驚き憧れながらも、出来合のハリウッド製サウンドエフェクトの入手ばかりにあの手この手を尽くし、自分たちで一から作ろうとしない現場の多いこと。出来合の効果音で仕事をして平気でいられる、人の作った効果音を使って仕事して、それを自分の仕事と言い放ってはばからない音響さんの多いこと。

 私は修行時代、師匠に「効果音はオーダーメイド。作品ごとに効果音を新調するくらいの心意気でいろ。この作品の雷と、あの作品の雷が同じ筈はない、というくらいのこだわりを持て。」と叩き込まれました。

 それを裏付ける師匠の教えが、「音響さんは効果音作りにおいては、音を演ずるプレイヤーである」ということでした。

 舞台の世界において、効果音はまず、その音を生で出すのか、録音したものを再生機器で再生するのかという検討がなされます。生で舞台袖や舞台装置の裏で効果音を「演ずる」方が効果が得られるのならそうします。これも師匠の言う「音響で効果を得るのに手段は問わない。生だろうと完パケだろうと、アナログもデジタルも関係ない。」という教えです。

 ヒグラシ、トンビ、ウグイス、フクロウ、虫、小鳥などがその代表格ですが、チャンバラの場面で人を斬る音や鞭、ビンタなど、キッカケがタイトなものも舞台袖で役者の動きに合わせて生で「演じた」こともあります。

 この時点において音響さんはまぎれもなく「プレイヤー」であり「役者」であり「ミュージシャン」でありますし、またそうでなければ勤まりません。それは皆様にも御納得頂けると思います。

 そうしますと自ずから、効果音を録音して再生する、という場合にも、その録音する時には、マイクの前で音を「演じて」いなければ、その音は効果音にはなってはくれず、ただのノイズです。

 先に述べた鳥の羽ばたく音を傘で作る場合も、マイクの前で傘を使って鳥を「演じて」いなければ、それは鳥の羽ばたく音にならず、ただの傘をバタつかせた音でしかありません。

 このあたりのことが、音響の世界の次世代に伝承されていないことに、私は大変な危機感を覚えるのです。

 こういうことを申しましても、私だってまだそんな年齢ではないし、その一方で自分より下の世代の音響さんには、私が得た様な教えが全然伝わっておらず、何も学ばずに徒らにサラウンドやマルチサウンドを弄んでいる若手の作品の、土台がないがしろにされた酷い音がハエの様に飛び回っているのを聴くと、これはまずい、音響の本質が欠落したまま水膨れしている、これが当たり前になってしまったら一体どうなってしまうのかという、暗澹たる思いと焦燥感に胸を鷲掴みにされるのです。

 音を「演じる」、音響は音に芝居をさせる、音を通じて自分が芝居をするという、音響の本質がそのまま凝縮されている効果音、サウンドエフェクト。

 何号かにわたって、お話を続けさせて頂きます。


(石丸耕一 音響演出家 www.lunadfuego.com)


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