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 多目的ホールと呼ばれるホールや劇場は、客席の壁にウォールスピーカと呼ばれるスピーカが多く設置されています。

 多目的ホールが数多く建設された当初の、ウォールスピーカの設置理由は、「映画上映の際に必要となる為」というのがもっぱらだったようです。が、多目的ホールにてウォールスピーカをそのように使用している話は現在、殆ど聞きません。

 一方、演劇やミュージカル、オペラ等の公演においては、音響デザインとしてウォールスピーカを使用することはままあります。私自身、かなりの頻度で使用していますが、出かけていった先のホールでの、ウォールスピーカの状態、コンディションのばらつきには、驚かされもしますし、頭を抱えることもしばしばです。

 設置する側、管理する側が、ウォールスピーカの必要性をあまり感じていないからなのでしょう。形骸化したシステムプランの中で、おざなりな扱いを受けているウォールスピーカに出くわすと本当に苦労します。

 それではどうしたらいいのでしょう。

 簡単に言えば、使用頻度が上がるように、必要とされる機会が増えるようにするということでしょう。

 演劇やミュージカルやオペラなどの舞台公演で必要だと言い続けても、年間のスケジュールの一体どれほどの割合を占めるのか。

 更にそれら舞台公演でどれくらいウォールスピーカを使用しているのか。ここが少ないからこその、この現状なのでしょうから。

 使用頻度をあげるとすればまず、多目的ホールの出来始めた当初の、映画上映の際に必要なウォールスピーカ、という原点に立ち戻ってみます。
そしてその映画上映としての設備と、舞台公演との融合が図れれば、ウォールスピーカの必要性が上がり、それは設置やメンテナンスにおいても、クオリティのアップにつながるのではないでしょうか。

 その面からも私は仲間と共にこの4年ほど、5+1サラウンドのシステムを演劇などの舞台公演の音響効果に使えるかどうかの実験を繰り返しています。

 その試行錯誤の経過につきましては、自身のHPにて報告させていただいたり、2003年の日本音響家協会の立体音響セミナーや、今年の日本舞台音響家協会のサラウンド実験会などで御紹介させていただく機会を頂戴したりしておりますが、これらについては今月のテーマとはずれてしまいますので、別の機会にお話しさせていただきます。

 ともあれ、イメージしてみましょう。5+1サラウンド方式で客席内の壁にスピーカを設置します。映画の上映時には映画上映用のプロセッサを通して作品指定のサラウンド方式にて上映を行います。
舞台公演に於いては、現在ハードウェアソフトウェア取り混ぜてサラウンドプロセッサが多種販売されていますが、それらを用いることで舞台公演における立体音響演出を行うことが可能になれば、ホールの設備としてのウォールスピーカにも、再び価値を見直されるようになるのではないか、と思うのですが、いかがでしょうか。

 そうしますと、ウォールスピーカのクオリティも、製品の選択時に見直されることと思います。
現在は、小さい口径のフルレンジ、良くて同軸2ウェイのものが設置されていることが多いです。

一方で、映画用のスピーカを見ますと、大きなスピーカでも、ビックリするほど奥行きの少ない、薄いスピーカが出ています。現在ホールの壁に埋め込まれているウォールスピーカよりもずっと薄いのです。これでしたら、映画用スピーカをウォールスピーカに流用することも不可能ではありません。
壁の厚みよりスピーカの奥行きの方が厚くてスピーカの選定に制限を及ぼす、ということがなくなる訳です。

 もちろんこれは、まだ仮想の話です。5+1サラウンドの技法が、演劇やミュージカルやオペラ等の舞台公演での立体音響演出に有効であるかどうかは、先に述べましたように試行錯誤の段階です。実際の公演で少しずつ試してはいますが、ノウハウを蓄積しているところです。

 しかし実際の公演で試みて実例を重ねるにしましても、設備のインフラが伴わなければ、客席を取り囲むように仮設のウォールスピーカを持ち込まなければなりません。また現在、劇場やホールへ出かけていって舞台公演を行う際、これなら何とか、と思えるウォールスピーカが設置されていて、使用したい旨を伝えると、露骨に嫌な顔をされたり、壁に付いてはいますが死んでます、回線はつながってません、とか、鳴りはするが一体最後に埃を払ったのはいつなんだ、と思うような音しか出ないコンディションのスピーカだったり、なんて目にも随分会ってきました。そういう、大多数の意識とのせめぎ合いは、きっと今後も長く続くのでしょう。

 でも、提案し続け、提案を見直し、更に練り上げて新たに提案し直す、という作業は、止めることをせずに続けていこう、と思っています。


(石丸耕一 音響演出家 www.lunadfuego.com)

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