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 前 先月からの怒涛の引きで「魔笛」の2回目です。

 もはや舞台裏のドタバタは本編よりも面白い。

 てなことはよくあること。はっはっは。


 オペラの「魔笛」の公演を、シンセサイザーと効果音をかなりフューチャーしたコンセプトで稽古を続けてきたのが、シンセ奏者が煮ても焼いても喰えないレベルのミュージシャンで、初日前日の深夜に、指揮者がプッツン切れてシンセ奏者と大喧嘩してシンセ奏者が降板した、シンセのクビを切ってから事態の大きさに落ち込んで狼狽した指揮者が石丸に電話をかけてきて泣きを入れたのが深夜の2時、初日の小屋入りまであと6時間…というのが前回までのあらすじ。

 「Mさん、大丈夫だよ。ちゃんとうまくいくよ。うまくいくようにしてあげる。Mさんは正しいよ。心配しなくていいよ。」と指揮者を励まして電話を切ったはいいが、さあ、ここからが今度は私が修羅場です。

 指揮者の言う、指揮者の手持ちのオモチャみたいなキーボードの音をSRできるか、なんて解決方法では気が済みません。この場合の一番の解決は、シンセ奏者のクビを切った、それでシンセ奏者がいた時よりもずっといい結果が出ることです。

 弾き手は指揮者の教え子が徹夜で譜読みしてやるということになったとのことで、あとはシンセです。

 シンセ奏者が持ってきていたシンセよりもっとずっといいシンセを、深夜2時に、これから6時間の間に調達しなければなりません。

 私も自分の弟子、部下、手下、教え子に片っ端から電話をかけ、何が何でも指揮者のM氏を助けようと燃えていました。

 シンセは意外なほどあっけなく調達出来ました。

 私の連絡を受けた弟子達が次々と自分達で連絡を取り合い始め、あちこちに訊いて回ってくれて、嘘ぉ、と思うような立派なシンセが、こんな深夜に、それも6時間後の朝8時に劇場に持ってこい、そのまま公演期間中貸しておけという無茶苦茶な話が、あっというまに実現してしまいました。

 そのあたりは、私も私の弟子、手下、教え子達に感謝することしきりです。シンセを持ってきてくれた若衆は笑って、
「俺ら、石丸さんが燃えてるの見るの好きなんスよ。石丸さんが燃えてると、俺らも、よーしやるぜ、って感じになってくるんスよね。やらされてるって気は全然ないっス。この人と一緒の時間をもっと持ちたい、もっとこの人と同じ時間を共にしたい、そのために自分に出来ることがあるんだったらこんなに嬉しいことはない、って、俺らみんな思ってます、ハイ」

 と言ってくれました。そしてバカでかくて重たいシンセを劇場に担いできてそのまま、音響スタッフとして居着いてしまいました。

 他の若衆たちも、翌日は一日中「大丈夫でしたか」「どうなりましたか」「今仕事終わりました、これから駆け付けましょうか」「他に何かありませんか」とひっきりなしに携帯にメールを入れてきます。

 うぅ、みんな有り難う。弟子、手下、教え子に恵まれて石丸は幸せです。
 公演は無事大成功に終わりました。徹夜で死に物狂いで譜読みをして来てぶっつけ本番に望んだM氏の教え子の実力と熱意、そして私の若衆の持ってきてくれたシンセサイザーは、主催者や演出家、指揮者のM氏からも「こっちの方がずっといい」「初めからこうすればよかった」と言われるまでの結果を出すことが出来ました。

 打ち上げの席でM氏がこう言ってくれました。
「あの夜、シンセのクビを切った報告を演出家や主催者にもしたんだけど、みんな大丈夫だよとか言ってくれるんだけど、慰めてくれてるとしか聞こえなくて、あのままだったら俺ホントに初日の朝、劇場に来れなかった。ていうか身体が動かなかった。

 それがさ。石丸ちゃんが大丈夫だよって言ってくれたら、なんかこう、気持ちがストンと落ち着いて、あ、大丈夫なんだ、ってすごく自然に思えた。

 でね、後で思ったんだけど、あ、こいつスゲェな、って思ったよ。こいつスゲェパワー持ってるな、って。

 石丸ちゃんは見てくれはこんなだけど(ってどんなだよ)、もの凄い力持ってるな、って。言葉に力がある。説得力とかそんなんじゃなくて。そのパワーっていうのは、口先でどうにかなるもんじゃないし、それだけの実力や経験や場数を踏んだ凄み、っていうのかな。それが俺に力を分けてくれたんだよ。

 だからさ。音響さんは石丸ちゃんの他にもいっぱいいるし、石丸ちゃんじゃなくても公演の音響はうまくいくかもしれないけどさ、俺は石丸ちゃんと現場を一緒にやるのが好きで石丸ちゃんに音響を頼んでるんだなって気がついた。別に石丸ちゃんが音響じゃなくてもいいんだ。俺の現場に石丸ちゃんがいてくれるっていうのが嬉しいんだ。」

 ここまで言って貰えて、もうテレテレに照れて、何も言えずにうつむいていると、M氏はポンと私の肩を叩いて、
「そうだ。この魔笛、全国ツアー回ることにしたからさ。よろしくね。」
 えー!?もうこれ以上問題起こすなよ。


(石丸耕一 音響演出家 www.lunadfuego.com)
 
 

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