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 音話屋ダイアリーが、第100幕を迎えました。

 96年4月の第1幕より早や8年。その前のステージ音響の月替わり連載陣の一人として参加してから10年。

 長いようで短いようでとても長くてあまりにも沢山のことがありすぎた10年、そして8年でした。

 まず、ステージ音響の執筆陣に選んで下さった、そして私がステージ音響から独立して独自のページを持つことを快く許して送り出して下さった、日本音響家協会の八板賢二郎会長に、心からの感謝を申し上げます。

 そしてこの原稿が遅いくせによく筆が滑る筆者をずっと支えて下さった放送技術編集部の皆様。

 それから何より読者の皆様。恐らくはこの放送技術に掲載されているこのページをご覧の方々と、ネット上に掲載されているこの音話屋ダイアリーのバックナンバーをご覧の方々は、ほぼ同じくらいの比率だと思いますが、皆様方に支えられ励まされ、ここまでやってこれました。

 これからもどうぞ宜しくお願いいたします。

 さて、感慨にふけるひまもなくここは一通過点でしかない訳なのですが、しかし通過と言いましても、一体、どこから来てどこへ行くのか。

 この音の世界というのは、果てしない、スタートもなければゴールもない、永遠にその世界を遊び彷徨うものに感じます。

 雲1つ無い真っ青な空と無限の地平線まで続く草原の中に独りぼっちで立ち尽くして途方に暮れている、そのどこか遠くから、キィーン、キィーンという鐘の残響の音だけが長く長く、風と光のすきまからかすかに聞こえてくる、そんな感じです。


 どこへ行こう。どこまで行こう。

 ついつい、あっちこっち、行ってしまいます。

 例えば、私は現状では、マルチチャンネルによる立体音響を信用していません、という話。

 映像は視覚、意識上の感覚ですが音響は聴覚、無意識下の感覚です。正常に感じられれば意識をしませんが、違和感を覚えるととたんに意識をします。

 現状のマルチチャンネルは言ってみれば、話しにならないほど粒子の粗いドット絵のようなもので、現状でマルチチャンネルによる立体音響を楽しむというのは、その粗さからくる違和感を、新鮮と置き換えて楽しんでいるにすぎないと感じます。

 だからといってただダメと片づけるのではなく、どうしたらいいのかを考えるところに技術の進歩がある訳で、あれこれ考えなければなりません。

 視覚ならばドット絵の粒子が細かくなればなるほど錯覚を引き起こして違和感を感じなくなりますが、聴覚という無意識下の感覚に対し同じ手法をとるには、大きなドームにトンボの複眼ほどの無数のスピーカを埋め尽くさなくてはならないでしょう。
あるいはその対局にある2chヴァーチャル。最終的に人間の耳は左右二つという基本原則に立脚した、ヴァーチャルと割り切ったこのアプローチは、ちょっと視点をずらすと、新しい可能性が見える気がします。

 視覚をだますのは簡単ですが聴覚をだますのは至難の業です。聴覚に訴える難しさは、視覚に訴えるのとは比べ物にならないほど難しいと感じます。

 にもかかわらず、私が御承知の通り、立体音響にこだわり、関わり、トライし続けるのは、人間と空間、という、表現芸術のあらゆる根本に真摯に向き合う作業であり、それは視覚に訴える「絵を描く」という作業に比べて、はるかに楽しく、難しく、前人未到だからです。


 どこへ行こう。どこまで行こう。

 ついつい、あっちこっち、行ってしまいます。

 誌面が尽きてしまうので列記だけしていきますが、

 例えばこの業界の、ロイヤリティーとライセンスの問題。

 例えば次世代の後進に私達が差し出せる、この仕事に対するモチベーションの問題。

 或いは96年に私が実験的公演を行った、音・音楽・映像のコラボレーションライブは、芸大の教授に「君のやっていることは立派な無旋律音楽だ」と言われ相手は褒めた積もりでしょうがこちらはヘコみました。近年コラボはクラブなどでも盛んに行われているようですが私が目指すのはもっと音も音楽も映像もアコースティック性・自由度・インプロビゼーション度の高い、もっと空間を意識した、もっとスピリチュアルなものです。ある意味これが真の「トランス」です。

 さらに最近増えてきた、社会人のアマチュアや小規模なオペラのサポート。合唱も演劇もバレエもミュージカルも、人は自分がやることによってお客さんにもなり、裾野が広がってきました。オペラにも今、その芽が出てきています。

 ああもう、書き切れません。あとからあとから溢れてくるんです。きっと生きている間に、すべてをやることは無理なんだろうなぁ。

 どこへ行こう。どこまで行こう。

 どこまで生けるだろう。どこまでも行きたい。
つれづれなるままに。


(石丸耕一 音響演出家 www.lunadfuego.com)
  

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