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 プッチーニのオペラ「西部の娘」の公演に参加しました。
 この作品はプッチーニ晩年の作品で、彼には「トゥーランドット」や「蝶々夫人」「トスカ」等数多くの名作がありながら、この「西部の娘」が上演された時には出来栄えに自分で感動し「私の最高傑作」と言っていたものです。

 その頃はちょうどリアリズム演劇の隆盛、映画の誕生とそれが人気と流行を集め始めていた時代で、プッチーニはかねてより迫り来る新しい時代の波にナーバスになっていたようです。
 それがこの作品に色濃く投影され、映画の劇伴音楽のような曲の数々、山ほどのリアルな効果音の指定、オペラとしてはかなり斬新なものになっています。

 この作品の上演にあたって演出家は、プッチーニのそういう気持ちや姿勢を大事に再現すると共に、そのプッチーニの気持ちでこの現代においてこの作品を上演するとしたら、という考えから、演奏をエレクトーン2台で行う、と私に連絡してきたのです。そして効果音の数も、今まで参加してきたオペラ公演では経験したことのないような沢山の数でした。

 演奏をエレクトーンで、というのは、勿論それによってオーケストラを雇わずにすます、費用が安く済む、という目論見があると思います。それについては、オーケストラの団員に知り合いや友人がいる私としては、なかなかに素直にうなずく、というわけにはいきません。しかし、楽器の可能性を探るという立場からの、オーケストラに替わるエレクトーンでのオペラ演奏という試み、というものには、音響として単純に興味を持ちます。

 オーケストラピットにオーケストラを入れずに公演を行う、という点では、バレエ公演で音楽を完パケ再生にて上演するのと同じです。こういうケースは結構あります。
 これらのようなオペラ公演、バレエ公演の場合、音響がやらなければならない大切な作業があります。

 それは、エレクトーンの演奏や完パケの音楽を、あたかもオーケストラピットから聞こえてくるような定位と響きを作る、ということです。
 キッカケ通りに音楽を再生することや、効果音を用意したり作ったりして叩き出すのは、音響の仕事としては全体の中のごく一部分に過ぎません。

 音響さんには、そのホールで、オーケストラピットの有る無しに関わらず、オーケストラピットで生演奏がされたとしたら音楽はどのように聞こえどのように響くか、イメージを持つことが必要です。それが一番重要な仕事といっても構いません。

 日本のオーケストラピットは狭く深いものが多く、外国のオペラハウスは広く浅いものが一般的です。
 またオペラハウスはコンサートホールと違って、実際に外国で聞いてみると、以外に残響時間が短く、でも奥行きの感じられる響きを持っています。
 これを、自分たちの音響システムで、公演会場の響き具合と相談しながら再現するチューニングを行っていく。
 このエッセイに度々登場して皆様御存知の私の相方、白石はその方面の能力、才能に抜きん出て秀でており、私はこういう時には全くおまかせ状態で楽ちんをさせて貰っています。

 そして今回の公演は、天井が低く残響が殆どないスタジオのような会場での上演でしたが、指揮者、演出家からの強い要望とプッシュがあって、ヤマハの残響付加システム「夢・響」を使用して響きの調整を致しました。ヤマハの持つ、同様のシステムで業務用のARシステムに比べれば、大ざっぱな調整しか出来ませんでしたが、指揮者や演出家の十分な満足は得ることが出来ました。
 つくづく、オペラやバレエの公演は、指揮者や演出家と音響が親密に意志の疎通を取り、コミュニケーションが取れなければ成立しないな、と痛感します。

 それは、かつてモスクワ・ボリショイ劇場の芸術総監督であり、生前のショスタコービッチと組んで数々の名作を生み、ボリショイ劇場の黄金時代を築いたボリス・ポクロフスキー氏に私が直接指導を受けた折りに、幾度となく言われたことでした。
 さて、実際に今回の公演を上演してみて感じたことは、エレクトーン側の更なる発展にかかっている、と言えるということです。

 まずエレクトーン奏者が、これはピアノでも同じですが、基本的に日本ではソリストとしての教育カリキュラムしかないのです。ピアノの方は最近コレペクトールの教育コースが定着してきましたが。オーケストラとして複数のエレクトーンを合奏し、オーケストラの各パートを複数のエレクトーンに振り分けて担当して演奏する、というのは、その為のスコアさえありません。現在は指揮者用のスコアを指揮者が書き直している状態です。またハードウェア的な面では、エレクトーン本体の音質の更なる向上と、各パートごとにバラバラに音を取り出せる16出力くらいのアウトが必要です。

 そしてゆくゆくは、4台〜6台でのエレクトーン演奏を前提とした新作オペラの執筆が求められてくるでしょう。 

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