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  聖地、と言われる場所がいくつかあります。

 音楽の聖地はまずイタリア、そしてオーストリア、ロシアということになりましょうか。異論のある方もいらっしゃるかもしれません。
 演劇はギリシャ、ついでシェークスピアのイギリス、続いてモリエールのフランス、それからスタニスラフスキーを生んだロシアということになりましょうか。
 映画は文句なくアメリカ。ミュージカルはイギリス、そしてアメリカ。

 昨年10月号に個人的趣味で書かせて頂いたカフェ、そのコーヒーは、作家の塩野七生氏の本によれば、もともとトルコでカべー「KAVEE」と呼ばれる、誰もが道端に座り込んで飲んでいる黒くて熱い「頭がスッキリする薬」を、当時貿易大国だったヴェネツィアの商人達が持ち帰り、「KAVEE」が「Caffe」に変わり、薬を嗜好品に作り替えて大流行させた、とのことです。世界最古のカフェはサンマルコ広場に18世紀には登場していたということですから、コーヒーの御先祖様はトルコだという現在の定説はそのままにしておくとして、トルコのコーヒーの原形であるものと現在我々が親しんでいるコーヒーはやはり切り離して考えるべきでしょう。そういう意味では現在のコーヒーの聖地はベネツィアということになりましょうか。

 さて。聖地や「ゆかりの地」を訪れたいという人間の知的好奇心(知的か?とおっしゃる向きもありましょうがここは知的ということにしておきましょう)は昔も今も変わりなく、ローマ帝国時代、キリスト教が帝国の国教になってからは、ベツレヘムやゴルゴダの丘が観光名所となり、訳の分からんお土産品や紛い物の出土品が飛ぶように売れ、名所の落書きは絶えないわ遺跡を削って持ち帰る輩は後を絶たないわ、観光客のマナーの悪さは古今東西不変のもののようです。

 かく言う私も御多分に漏れず、モスクワを訪れた折り、ロシアの友人の運転でモスクワ郊外の巨大な湖に連れていかれ、「ここが白鳥の湖のモデルになった湖だ」と言われたときには胸が躍りました。
「ホント!?」「ハッハッハ、ロシアにはそう言われている湖が300はある」と言われてガッカリ。
「この湖はスターリンが作った人造湖で…」っておい、どこが白鳥の湖なんだスターリンじゃないかっ!

 世界3大宮殿はパリ郊外のヴェルサイユ、ウィーンのシェーンブルン、サンクトペテルスブルグの「隠れ家」という意味を持つエルミタージュだそうです。ロンドンのバッキンガムやモスクワのクレムリンが入っていないのは意外ですが。

 世界で有名な三つの山は、となると、ヘミングウェイで有名になったキリマンジャロ、世界最高峰のエベレスト、そしてMt.富士だそうです。これはこちらに御挨拶のつもりで言ってくれたのかもしれませんが、案外、世界で有名な山はという質問に対しては富士山と答える人は多いんだそうです。日本という国から連想されるものとしてまず富士山が挙げられるからでしょうか。世界最高峰のいつ噴火してもおかしくない休火山だ、と言う人もいます。ヨーロッパの山が入っていないのは、ヨーロッパは山脈が有名なのであって単体の山という訳ではない、ということだそうです。

 こういうのは挙げていったらきりがありませんが楽しいものです。特に外国の人とこの手の話をすると、いろんな物の見方、考え方を発見できて楽しいです。そのバックボーンには、それぞれの文化圏が背負っている歴史、宗教などがある訳ですが、それを知って楽しむ為には、自分の中にも確固たるものがなければ楽しめません。第一、それがない人間は相手にはして貰えません。

 私は音楽の聖地としては、オーストリアとロシアには行きましたがイタリアがまだです。演劇の聖地はイギリスとフランスとロシアは行きましたがギリシアがまだです。
 次に行きたいと思っているのはイタリアです。ヴェネツィアへ行って、どうしてもカフェに行きたい。18世紀のヴェネツィアに想いを馳せながら、ヨーロッパ文化圏にコーヒーが上陸したその地で、コーヒーが飲みたい。
 そしてローマ。フォロ・ロマーノの、シーザーがブルータスに刺されたその場所に立ってみたい。シェークスピアの「ジュリアス・シーザー」の翻訳で、
「ブルータスよ、お前もか」に続いて、「では死ね、シーザーよ」と言って死ぬ翻訳と、「ではシーザーは死ぬ」という翻訳との、両方の公演に携わりました。私個人は「ではシーザーは死ぬ」が好きなのですが、この台詞を実際にその場で言ってみたい。その時、私はそこで、どんな音を聴くのだろうか。

 こういうことは、どなたにもおありでしょう。
いつか行きたい。必ず行こう。これが生きる楽しみであり、生きる張り合いであり、なぐさめにもモチベーションにもなってくれます。

 あなたは、どこに行きたいですか?

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