最近、劇場の公演の中継収録が増えてきました。 私の回りの仲間は、「なぁに、多チャンネル時代になって、コンテンツが足りなくって、製作費が増える訳じゃ無し、手っ取り早くて安上がりなのがスポーツと劇場やコンサートの中継収録なんだろ」とヒネてハスに構える態度を崩しませんが、私にしてみれば、嬉しい反面、気が引き締まります。 インフォメーションとして「どうです、面白そうでしょ、どうぞ観に来て下さいね」と中継して頂きたいと思う一方で、「この画面の中じゃ面白さは分かりませんよ、劇場で体験して下さいね」と言えるだけの事を劇場が、公演が行っていなければ劇場文化は滅びてしまいます。それを音響という立場から、何が出来るかを模索するのが、ここ十年近くの私の活動のテーマの一つなのですが。 最近では顔見知りの中継の技術の方も増え、コミュニケーションが円滑に取れるようになってきました。 いわゆる「町のビデオ屋さん」の場合、「俺は何でも知ってる、何でも分かってる、こんな劇場慣れてる」と大上段に振りかぶって来る方が多いです。勿論そんな人ばかりじゃないのですが。実る穂ほど垂れる、というのはジャンルを問わない話です。えてしてそういう人は、電源系や回線のノイズでトラブルが発生し、大騒ぎになります。そういう場合、「まず自分の持ち込んだ機材を疑え」というのが鉄則で、私が他所の劇場に音響の仕事で出掛けたときもそうしていますが、騒ぐ方は決まって「うちは問題ない」と胸を張り、結局トラブルシュートしてみるとその方のアンバラ機材や電源ケーブルが原因だったりします。 放送局さんの場合、そういう機材のトラブルは殆どないのですが、技術とは別のトラブルが時々起こります。 ある外国の劇団の来日公演で、ハイビジョンの中継収録が入りました。下見でディレクターさんや技術の方々が公演をご覧になって、「こんなに暗くちゃ収録できない」という話になりました。 が、その時の中継チームは、技術の方達はお分かりになっていたのですが、ディレクターさんがお分かりになっていなかったようで、調光室に行き、日本側のスタッフに向かって、「この公演、ハイビジョンで撮るんだけどさぁ、これじゃ暗くて撮れないんだけど、収録の日だけもっと明るくしてよ」と言ってしまいました。 照明さんは当然ブチ切れます。あまりにも態度が横柄で「こっちは撮ってやるんだ」という気持ちが見え見えだったそうです。 間もなく演出家と通訳が現れました。その時のディレクターさんの態度の変化は私もあまりに面白かったので今でもはっきり憶えています。 大ピーンチ!このお話、次号に続きます。 |