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 先月までお話してきた立体音響の大切な要素として、音の方向、そして距離が挙げられます。
 が、これは、舞台公演や完パケの作品にとどまらず、私達の日々の生活の中でも、とても大事なものです。
 今月はそのお話を致しましょう。そのお話をお聞き頂ければ、私が何故今の時期にこうして立体音響について重要視し、何ヶ月にもわたってシリーズ連載をさせていただいているか、その別の側面からの理由をご理解いただけると思います。

 昨年の秋に集中連載させて頂きました国際福祉機器展、あの時に親しくさせていただいた環境音を研究なさっている大学の方々から伺ったエピソードを一つご紹介しましょう。

 ある駅の改札と券売機前を想像して下さい。そこには通りに面して街の案内板があり、目の不自由な方のための音声案内が付いています。
 通りにはスクランブル交差点があり、目の不自由な方のために音で信号を知らせる装置が付いています。
 案内板の音声案内を聞いていると、突然交差点からけたたましい電子音楽と電子音が聞こえて来て、ビックリしたら音声案内の大事なところを聞き逃してしまい、結局音声案内を一から聞き直し。

 こういうことがおきてしまう一番の理由は、エリア全体のトータルデザインが出来ていないから、というのは今更ご説明するまでもありません。その原因が、信号や駅や案内板の管轄がバラバラで、しかも縦割り行政のためにそれぞれが勝手に音を出しているからなのですが、確かにそれが根本的な問題でそれを解決するのが一番の本筋なのですが、それについてここでこれ以上お話するのは、ここは新聞の社説ではないのでこっちへおいといて。
 現場の技術レベルでも、現状を多少でも改善出来る手段はある、と前述の大学の方々はおっしゃいます。
それが、「音の方向と距離」です。

 例えば案内板でも、全部の案内情報を一つのスピーカから流すのではなく、前後左右とその間の合計8個のスピーカを設置しておきます。案内板に向かって立つと頭の上を8個のスピーカが取り囲むようになります。この状態で、仮に図書館なら図書館の場所の案内を、「図書館はこちらの方向、歩いて約4分です」というように、図書館のある方向のスピーカから音声案内が聞こえてくる、というやり方です。

 駅の階段でも、階段の上り口の左右にスピーカを埋め込んでおいて、「何番線、今の時間はこちら側が上り側の階段です」というように流すと、近隣の階段からの音声もかすかに聞こえて、何番線の階段はどっちの方向なのかまで分かるという訳です。

 前述の大学の方はこれを以て「音に方向と距離の情報が加われば、人はそちらの方へ、そちらの音へと耳をそばだてる。そうすれば音一つ一つの音量はさほど大きくしなくて済む。これが正しい音環境の静粛化だと考えます」と発表なさっていました。
 我が意を得たりとはこのことで、舞台表現での立体音響でも、音が立体になることでお客様はそちらの方向へと耳をそばだてる、音に対して能動的になるので、音量をあまり大きくしなくても聞いて貰える、結果としてハウリングしにくくなるという別の側面のメリットがあります。

 駅や街中の環境音の静粛化については、勿論、今まで「子供の音環境を考える」シリーズでお話してきた、人々のモラルの問題も大きなポイントです。駅のアナウンスを全部無くしてしまえと申し上げているのでは決してありません。目の不自由な方々にとってはアナウンスが大事な案内だということは十分承知しています。だからこそ、「白線の内側へ下がれ」だの「携帯電話は切れ」だの、モラルさえ守られていれば不必要なアナウンスが無くなれば、「何番線にどこそこ行きの電車が参ります」などといった、目の不自由な方々にとって本当に必要なアナウンスだけが残ります。これが正しい駅の静粛化だと思います。ここに、方向と距離というテクニックを加えることによって、ほんのもう少し、更に静かな音環境が作れるのではないか、というお話です。

 私のこのエッセイでは、日々の雑感をお話しさせていただいている他に、幾つかのシリーズが混在しています。「子供の音環境を考える」シリーズ、「国際福祉機器展」シリーズ、「稽古場から」シリーズ、「立体音響」シリーズ、「音の絵本」シリーズ等です。他にも幾つかありますが、不定期に、順不同に、回数を重ねさせていただいています。
 それぞれバラバラなテーマのように見えますが、私の中では全てが一つに収斂されていくものです。今月のお話も、「子供の音環境を考える」シリーズと「国際福祉機器展」シリーズと「立体音響」シリーズのクロスオーバーです。

 その根本になるのが、何度もお話させていただいていますが、音響のアルファとオメガ、

「音で人は幸せになれる。願わくば一人でも幸せになって貰いたい。」それを突き詰めれば「人は幸せになるために生まれてくるのだ」ということです。

 バックナンバーは私のサイトに全て掲載してあります。ご参照下さい。

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