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 「立体音響演出」の第2回目です。

 完パケでの立体音響には、5+1と、2chヴァーチャルとがあって、それぞれが、互いにはない長所を持っています。
 2chヴァーチャルは、位相操作により、音が立体的に聴こえる「気がする」錯覚を与えるものです。
 ですから当然、聴く人による個人差が出てしまいます。立体に感じられる人と、「全然そう聴こえない」という人との差がハッキリ出てしまいます。

 5+1は、実際に後方にもスピーカを置きますから、聴こえる音は錯覚ではありません。その意味では、2chヴァーチャルに比べてはるかに的確に聴く人に効果を与えることが出来ます。
 しかし5+1は、かなりハードウェアに依存する部分が多くなります。後方スピーカの機種選択と設置状態によって音質と効果はガラッと変わってしまいます。

 つまり、制作サイドにとっては、聴き手の環境次第では作り手の意図通りに演出効果が伝わらない、という弱点があります。これが2chヴァーチャルなら、聴き手はヘッドホンで聴きますから、誰に対しても同じ音を聴かせることができます。
 更に、2chヴァーチャルでは可能だった音の上下移動が、5+1では全然出来ません。
 このように、2chヴァーチャルと5+1では、正に一長一短、片方が出来ることをもう片方が出来ない、という関係です。

 昨年このエッセイでお話しした音の絵本は2chヴァーチャルで作成致しましたが、今、これを5+1でも制作して、一つのCDの中に同じお話が2chヴァーチャルと5+1の両方で収録されているものを作ろうか、という話が出ています。
 なんだかパソコンのCD-ROMのハイブリッド版みたいな感じがしますが、要するにこの状況は、作り手から見れば、まだまだ発展途上のもので、とても作り手のイマジネーションを十分に具現化出来る状態ではないということです。

 将来、2chヴァーチャルと5+1が一つになったような、新しい手法が出て来なければならない訳ですが、それには、現在のように5+1を「映画館のような臨場感を自宅でも」なんていうところに押し留めておいてはいけないわけです。それでは、この先どっちに行ったらいいのか分からなくなります。
 技術の進歩はニーズが先に立つ。この当たり前の約束を、もう一度思い返さなければ、もう本当にどうにもならないところまで来ている、と1月号でお話ししたことは、ここにも現れています。
 立体音響は技術ではなく演出です。演出の欲求が技術の行く先を指し示してくれます。

 さて。舞台公演においては、ガラリと様相が変わります。
 立体音響という言葉が出てくる遥か昔から、私達の先人は、音像定位、音像移動という演出効果を行ってきました。
 最も原始的で、最も移動している音の密度が濃い方法は、音が出ているスピーカを運んで移動させる方法です。
 その後、アナログの時代には、出力フェーダーをクロスさせていくことでスピーカからスピーカへ音を移らせていく手法が広く行われ、これは現在でもよく使われています。

 その後、今から約10数年くらい前から、舞台公演での音像定位、音像移動の進歩はパタリと止まってしまっています。
 理由の一つには、その10数年前の一時期、メーカー主導の音像定位、音像移動の技術開発が話題になったことがありましたが、それらが揃って全く現場の実情を踏まえていない、非現実的な物が多く、現場の人間達がソッポを向いたことがありました。その時に、音像定位や音像移動という言葉に対して、非常にネガティヴなイメージが付いてしまった事は確かです。

 あの時に、「演出あっての技術」という約束がもう少しキチンと守られ、現場の意見をキチンとフィードバックしていたら、状況はもう少し変わっていたでしょう。
 あの頃出てきた製品群の中で、唯一、誠実に現場の意見に耳を傾けてくれて、尚且つ、他社のように現場の意見を「聞くだけ聞いて聞いただけ」にしなかった、ゆえに唯一現在も残っていてしかも進歩し続けているのが、ローランドのRSSです。他はみんな討ち死にしました。

 舞台公演での音像定位、音像移動が10数年前から進歩が止まってしまったもう一つの理由があります。
 これについてはそろそろ字数が尽きてきましたので次回お話しいたしましょう。
 その時に、私が何故、舞台公演での音像定位や音像移動と、完パケの2chヴァーチャルや5+1をひとくくりにして「立体音響」と呼んでお話ししているか、その訳もお分かりいただけると思います。
 それでは、また来月。

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