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 今、業界では盛んに、5+1を謳っています。皆様の回りでは如何でしょう?
 「映画館の様な臨場感」「映画館の迫力を御自宅でも楽しめます」と、私がよく行くお店でも視聴コーナーを設けて、盛んにその良さをアピールしています。
それを体験したお客様の店員への一言。
「だったら映画館行きゃいいじゃん。」
 この一言には、多くのものを内包していると思うのです。今回はそのお話。

 日本の住環境で、今まで二つだったスピーカを、前にもう一つ、後ろに二つ、更にサブウーファーも置きなさいと言われて、ハイハイと二つ返事で承知してくれる人が一体どのくらいいるでしょう?
 それでも無理矢理、家族の冷た〜い視線を浴びながら5+1を導入して、一体どれだけのものが得られるというのでしょう?御近所を気にしてショボーイ音量で聴きながら。
「このシステムはフルで鳴らせばホントはスゴイんだぜ」という負け惜しみに近い自己満足だけです。
 その自己満足に幾らお金を払うのですか?2万?3万?サラリーマンの平均おこづかいは5万円弱から4万円弱に下がったと日経新聞に書いてありました。5+1はお幾ら?ええっ、そんなにするの!?

 プライオリティの上位に食い込むのは容易ではありません。携帯電話やパソコンでのインターネット等の通信費が上位を占めています。次にファッション。ほぼ同率で交際費。趣味はその次だそうです。
その小さなパイを、膨大な種類の趣味のジャンルの用品相手に、5+1へお金を引っ張って来させようと考えた時、売り文句が「映画館の様な臨場感」「映画館の迫力を御自宅でも楽しめます」で、ホントに売れると思ってるんでしょうか?

 この統計からもう一つ読み取るべきものがあります。
上位に食い込む通信費、パソコン、ファッション、交際費、そして趣味の中でもゴルフ、スキー、釣り等のアウトドア、これらは皆他者と共に楽しむ、他者との関係性の中に発生するお金です。人々は他者との関わりを求めつつ怯え、自我と世間の狭間で揺れているのです。
 完全に個人のみで楽しむAVシステムが売れないのも道理です。持ち運んで外で自慢できませんもの。

ルイ・ヴィトンが一年間に日本で何百億と売り上げたのと対照的です。ヴィトンならどこへでも持ち運んでイバリ満点ですものね。
 女性のお小遣いの大半がヴィトンをはじめとするファッションに消えていくなら、AVシステムは始めから人口の半分、男性のお財布だけに期待して商売しなくてはなりません。圧倒的に不利です。(男性のお財布の中身の半分は女性へのプレゼントと食事代に飛んでいく気もするのですが)
 かつて、ラジオが登場したとき、世の中は変わりました。テレビが登場したときも世の中は変わりました。
しかしながら、5+1で世の中は変わりませんし、放送が衛星になってもデジタルになってもハイビジョンになっても、それで世の中が変わるということはありません。
今、人々はその夢を通信端末に見ています。
 かくしてオーディオ雑誌は休刊し、AVメーカーは倒産する。それは、1月号にも書きましたが、技術先行では最早何処へも行かれない、ということです。

 5+1についてもそうです。映画館と自宅のシステムには、決定的に違うところがあります。
 それは、大勢の人間が一つに向かって集中するときに発生するテンションです。舞台公演では、この客席のテンションは舞台公演を構成する大切な要素の一つです。
 例え貴方が映画館で映画を見たとしても、映画館を貸し切りにしてたった一人で見ていたら、映画は、とてもつまらなく、嘘臭く、自分の肌合いから剥離したものに感じられます。
 自宅の小さな空間なら一人で集中して作品世界に没頭できる、という意見もあります。でもそれには、電話のベル、外を走る車の音、訪れる宅配便、エアコンの音、家族の声、子供の「遊んで遊んで」のおねだり、立ち塞がる障害は山ほどあります。
それが冒頭の、「だったら映画館行きゃいいじゃん」になる訳です。
 ではどうしたらいいのでしょう?

 実はそここそが、今月から何回かに分けてシリーズでお話しさせて頂く「立体音響演出」なのです。
 いつも皆様にこのエッセイでお話していますが、音響とは演出です。5+1や2chヴァーチャルなどの立体音響も、立体音響技術ではなく、立体音響演出として正しく提示されれば、聴く人達は、「なるほど、だから立体音響なのか」と納得し、立体音響に必然を持つことが出来ます。
 それではじめて、導入がスムーズになるのです。
 来月から、具体的なお話に移りましょう。
 それでは、また。

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