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 このエッセイ「音話屋ダイアリー」にて、過去3年の間に4回、不定期に「子供の音環境を考える」というタイトルでお話をさせていただいてきました。
(97年9、10、11月号、99年12月号)
 その度に多くの反響、御意見をお寄せ頂きました。
 本当に有り難うございます。

 また、「音響のアルファとオメガ」という題でお話させていただきました時は、(99年9月号)
「音で人は幸せになれる。
音で人が傷つき、死んでしまうこともある。
私達音に関わる人間はすべからく、自らの扱う音の響力の大きさを自覚し、願わくば一人でも幸せになって貰いたい。
これが音響のアルファでありオメガであります。」
と書きました。
 これに対しては、特に若い方々から、沢山のメールを頂戴いたしました。やはり、音響の世界の若い世代、21世紀を担う世代に一番足りないもの、飢えているものは「モチベーション」なのだと、改めて再認識した次第です。

 2000年1月号では、これを更に突き詰めていくと、
それが音響であれどんな仕事であれ、「人は何のために生きているのか」という、有史以来の人間の永遠のテーマに行き着くことをお話しいたしました。

 これに対し私は、先に記した「音響のアルファとオメガ」に添って答えを導きだすと、
「人は幸せになるために生きているのだ」
という、当たり前で単純でもっとも実現不可能な答えが出てくることをお話しいたしました。
 96年4月にこの「音話屋ダイアリー」の連載を始めて以来、いつも私が折りに触れ、
「もっと何か出来るはずだ。少しでもいいから何かしたい。」と申し上げてきたスタンスは、上に記したようなことが私の中のコアになっているからです。

 そのコアは、もう随分昔になってしまいましたが、ある日、本番終了後、私が鬼と恐れていた先輩から、「お前は今夜のオペで一人前だ。今までよく喰い付いてきたな。でもこれからは一人で歩かなくちゃ行けない。お前の前に道はもうないんだ。お前が自分で道を作らなくちゃいけないんだぞ」と言われた、あの晩以来、ずっと自分の中で、いつも灯って来たものです。

 日々の忙しい業務の中で、時間を見つけては個人活動を続けてきましたが、ようやくその中の一つが、今年、一つの区切りを迎えることになりました。
 それはとりもなおさず、新しいステップのスタートでもあるのですが。
 97年7月号で御紹介した「音の絵本」、もともとは目の見えない子供達や長期入院している子供達に無料配付する目的で始めた「音の絵本」が、実は、始めてみると、現代の子供達が「耳をそばだてる」という行為を忘れてしまっていることに気付き、普通の子供達にこそ聞いてもらいたいと書かせていただきましたが、この「音の絵本」が、とあるメーカーさんの御賛同を得て、今年の9月12日、13日、14日、東京ビックサイトで開催される「国際福祉機器展」に出品することになりました。

 音響の現場の仕事に従事する私が、プロ音響の業界の展示会ではなく福祉機器展という通産省や厚生省や自治体中心の展示会に敢えて音響という立場で出品するのは、98年3月に書きました「音響は音響の中だけで内側向いて話をしていてはいけない。外へ向かって、社会とコネクトしていかなくてはいけない」ということへの、私なりのアンサーであります。また、車イスや介護ベッド等「目に見えるものだけが福祉ではない」という、音を扱う者からの提示でもあります。

 更に「福祉は健常者が障害者や老人に何かを『してあげる』のではなく『共に生きる』ということではないのか」という提示を、「音の絵本」を出品するということで、入院中の子供達や目の見えない子供達だけでなく、普通の子供達に「耳をそばだてる」ことを知ってもらうための物を知ってもらいながら、福祉の定義を考え直してもらう、という提案でもあります。

 これは、音響の人間だから出来ることです。
 音響の人間として、「音響のアルファとオメガ」を定義し、自分の選んだ仕事で一人でも幸せにすることは出来るだろうかという問いを日々の業務スタンスにすれば、誰にでも出来ることです。
 制作プロセスの面から言えば、レコーディングがこれから始まりますが、主演の声優は盲目の女性です。
 抜群の上手さです。
 健常者も障害のある人も(障害者という言葉自体が大嫌いですが)一緒になって、他の誰かのために何かをしたい。何か出来るはずだ。
 これは、どなたでも、どんな仕事をしていても、もつことの出来るスタンスだと思うのです。
 この国際福祉機器展、9月本番までの制作過程を、今回の7月号から、機器展が終了する10月号まで、連続でお送りいたします。

 また、今回のエッセイで引用いたしました、この「音話屋ダイアリー」のバックナンバーは、私のホームページに全部ストックしてあります。同時に、まもなくスタートする兼六館出版さんのホームページからもジャンプできます。
 どうぞ併せてご覧下さい。

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