otowa.gif

 インカムのヘッドセット。これは、私達舞台の人間のみならず、放送の関係の方々も、日々頻繁に使用する、馴染みの深い機材です。
 ところがこのインカムのヘッドセット、放送の関係の方々と私達舞台の人間とでは、根本的な使われ方が大きく違うんです。今回はそのお話。

 放送の方々が、スタジオ内で、あるいは中継の現場へインカムのヘッドセットを持っていったとして、そこでそのヘッドセットをかぶるのは、音声さんであれ、カメラさんであれ、それが通信機材という精密機械の端末であり、どのようにして使用するのか、使用上の注意点は何か、どういう使い方をしてはいけないのか、きちんと上の人から教えてもらって使用する訳です。

 私のいる劇場に頻繁に放送の中継収録が入りますが、見ているとFDさんに至るまで、頭からヘッドセットを外すときはマイクアームを真上まではね上げ、両手でヘッドセットを持って机の上なり床の上なりに置いています。丁寧な扱いが徹底されています。

 持ち込まれるヘッドセットは圧倒的にベイヤーのDT-108Cが多く、見ると大変に年期が入ってはいるのですが、丁寧に使われていて十分キレイです。

 これが、舞台の世界ではこうはいきません。

 舞台監督は舞台袖の操作盤にいますが、舞台上の安全確認や、迅速な舞台転換のために、或いは生の本番ならではの急なアクシデントやアドリブに対応するため、かぶっていたインカムを放り投げるようにして駆け出していったり、かぶったまま走り出してケーブルがひっぱられてヘッドセットが頭からはずれて落ちる、といった、使われ方が日常的になります。
 そして、一日の大半の時間をヘッドセットを装着して過ごすことになるため、皮膚に密着している時間がとても長い訳です。

 これは舞台監督に限りません。舞台操作の人々、照明、特にピンスポットの人々もそうです。
 こういう人々は、ヘッドセットを使用するとき、それが音響機器だと意識して使用する訳ではありません。そりゃそうです。一日の大半を頭と耳たぶに張り付いているものに対し、「これは丁寧に扱わなくちゃ」なんて気になんかしていられません。

 つまり舞台では、インカムのヘッドセットは、音響が管理しながらも音響以外の人々が使用する、大変扱いが難しい端末なのです。

 ここで考えなくてはいけないのが、装着感と衛生面です。特に装着感は、それがもとで頭痛、イライラの原因になり、ひいては思わぬ事故につながったり、そこまでいかなくとも、集中できない、心ならずも機嫌が悪い、ということになってしまっては、どんなにスペックの高いヘッドセットでも「こんなもんいらん」ということになってしまいます。

 例えば舞台さんにとっては、ヘッドセットは、舞台さん達が使うナグリやノコギリと同じレベルなんです。少しでも馴染むように、舞台さん達は、自分のナグリを、握りを手の大きさに合わせて削ったり磨いたりします。
 同じような要求が、ヘッドセットにも来ます。いや、ヘッドセットが「各人一個ずつの自前持ち」でない以上、個人でカスタマイズできない分、要求はシビアです。

 マイクアームを上へはね上げる時の硬さ、はね上げる時にゴリッと音がする・しない、使い込んでくると上げたり下げたりする硬さが緩んでくる、マイクアームをはね上げた時に先端のマイクヘッドが揺れる感触が伝わってくる、イヤーパッドが汗で蒸れる、イヤーパッドと反対側のこめかみに当たる部分の感触、頭の上を通るバンドの太さが細すぎるとずり落ちやすく、太すぎるとうざったい、バンドに巻かれたクッションが滑りやすい材質ではまずい、ケーブルがスパイラルの方がいい、いやよくない、マイクヘッド部がプラスティックではぶつけるとすぐに壊れて新品が2ヶ月ともたない、マイクアームがフレキになっているとイライラする、いやしない、etc、etc、etc…。
 もう本腰入れて一から新開発したほうが早いんじゃないか、というくらい、まだまだ沢山あります。

 それに加えて衛生面の問題があります。
 耳に入れるイヤホンタイプのものは言うに及ばず、人が使ったあとの、汗まみれで脂ぎったイヤーパッドは誰でも気持ち悪くて使いたくないですし、頭につくバンドの部分に、整髪料のにおいやポマードが付着していると、その後に女性スタッフが使用できません。イヤーパッドに付ける布カバーは、誰が洗濯して誰が殺菌し、清潔であると誰が保障するのか、その予算と手続きはどこが担当するのか、もうキリがありません。

 先日、私の回りの舞台さんや照明さん達にお願いして、現在市販されているインカムのヘッドセットを掻き集めて、一ヶ月間の試用テストをしてもらいました。

 一番評判が良かったのが、Telex社製のPH-1R。
「もうこれが手放せない」という声が多かったですね。あとはみんな大体どっこいどっこいの評価でした。
 毎日、恐らくはシャツやパンツと同じくらい、上着やサングラスよりも長い時間お肌に密着しているヘッドセット。
 もう一度、見直してみませんか?

backback
OTOWAYA home