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このエッセイでも度々御紹介しましたが、私は稽古場に、パワーブック1台を抱えて行きます。
 もちろん、舞台図から仕込み図、スケジュール、お金の相談、もろもろをこなすのに必要なのですが、最近は、デジグラム社のVX PocketというPCカードを手に入れて、音出しも容易に出来るようになりました。
 今までもパワーブックでの音出しはしてきましたが、このVX Pocketというのは、PCカードにキヤノンでアナログのIN/OUTと、ピン端子でSPDIFのデジタルIN/OUTがついていまして、簡単にミキサーやレコーダに立ち上げることが出来るようになりました。
 音質も全く問題なく、CDと同等、MDより良いと言えましょう。

芝居やミュージカルでは効果音や音楽を稽古場で編集したりエフェクトをかけたりキッカケで叩き出したり、ダンス公演では振り付けの先生と一緒に、稽古場で本番素材の編集も済ませてしまいます。
 実は、6mmテープを除くと、MDやMO、CD-Rなどと比較して、私のオペレート環境で言えば、パワーブックG3での音出しが一番トラブルがありません。一度も起きていないんです。実績の順から行くと、1位がパワーブック、2位がOTARIのDX-5050、続いてMD、CD-Rと続きます。

 この話をすると皆さん異口同音に「信じられない」「大した使い方してないんじゃないの」「Macはすぐフリーズするじゃん」とおっしゃられ、まるでまともに取りあって貰えないことが多いのですが、実際、現場でMacを使用している人たちに話を訊いてみると、パワーブックG3にMacOS8.6.1を入れた状態は物凄く安定していて、MDやCD-Rの比ではありません。

「スターウォーズ・エピソード1 ファントム・メナス」の屋外撮影の同時録音も、パワーブックG3で行われていたそうです。

 それでも、「いいや、そんなことはない。私もパソコンユーザーだが(Macユーザーだが)しょっちゅうフリーズしてしまう。とても生の公演の本番で再生機器として使用するなんて出来ない」と強硬におっしゃる方もいます。
 そういう方と私の差はどこから来るのかと観察してみると、う〜む、確かに違います。
 愛情の込め方が違うんですな。

 はい、ここからが今月の本題です。
 私にとってパワーブックは大切な「相棒」です。
 そのスペック表示に浮かび上がってこないポテンシャルは、どれだけ稽古場で、劇場で、私を助けてくれたか知れません。

 その例。舞台の大道具さんや照明さんの中には、なかなか強面で無愛想な方が多く、初対面の方はこちらから挨拶をしても、ろくすっぽ相手にしない、ということがあります。それは別に嫌いだからという訳ではなく、何と言いますか、そういうのが裏方さん特有の気質なんでしょうな。そうやって、相手の出方を見てる訳です。

 その時にこちらがパワーブックを取り出すと、場の空気は一変します。
「おぉ〜っ、G3だぁ」「これ速いんだよなぁ」「うちのデスクトップもG3だぜ」と、まるで長いつきあいのスタッフ同士の様な会話がいきなり始まります。
私以外の初対面同士のスタッフさん達も、一気に和気あいあいと話し始めます。

 スタッフだけではありません。私が現在親しくしている音楽監督、作曲家、ミュージシャン、俳優や声優さん達は、みんな稽古場で私のパワーブックを見て声をかけてきてからの付き合いです。
 こうやって、一つは少ないコミュニケーションの時間で出来るだけ早く親しくなるために、もう一つは、あまり馴染みのない人達にも「石丸さん?ああ、あのパワーブックの音響さんね」と、自分を記号化してしまうために、私は稽古場にパワーブックを抱えて行きます。

 他にこんな事が出来るパソコンはありませんし、パワーブックのスペック表示にも、こんなことは書いてありません。
 私は何もまるまる1ページ使ってパワーブックの宣伝をする積りはありません。今回お話ししたいことは、その向こう側です。

 何故そんなにコミュニケーションをとることに労力を割くのか、人間が、人間と、人間を楽しませたり感動させたりしようと舞台を作るのに、作る側の人間どうしが、心が通いあってなくてどうしてお客さんを感動させる事が出来るでしょう。

 公演に関わるそれぞれが、ただ能力や労働力だけを提供しあえばいいというのは、パソコンにスペックだけを求めるようなもので、そういう人と私とでは、パワーブックへの愛情の込め方が違いますし、私にとっては「相棒」なんです。

 今、稽古場で、食事休憩にこれを書いています。
ここまで書いて、演出助手の女の子がお茶を持ってきてくれて、
「あ〜、またパワーブック開いてニコニコしてる〜。
メールですか?それともラブレター?」
「ううん、君のこと書いてるんだよ。」

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