愛機シリーズ その1 JBL4425

 私、石丸耕一にとってこのJBL4425は格別の想いがあります。



JBL 4425

1984年。20才の私が日本大学芸術学部放送学科の学生で、「将来、音響の仕事に就きたい、音で飯が食えるようになりたい」と一念発起し、ラジオ局でラジオドラマの脚本・演出として働き始めた頃。

当時の文化放送やFM東京のスタジオのいくつかには、JBLの4430モニタースピーカが設置されていました。
ビジュアル的に強烈な印象を与えるバイ・ラジアルホーンと、2WAY特有の吹き抜けるような胸をすく音に心を奪われました。

しかしJBLの4430は当時一発50万円。左右で100万円。
まだ、1ドル360円をようやく切り始めた、そんな時代です。
到底買えるものではありません。
しかもかなり大型で、自宅に置いたら足の踏み場もありません。

その4430をグッと凝縮したような4425が展示してありました。
4430よりかなり小振り、それでも自宅に置いたら割と大きなサイズです。
試しに音を聴いてみました。
4430よりいいじゃありませんか!
ハイは4430よりパァーンと抜けて、ローは4430の方は少々ボワンとしていて気になっていたのが、4425はビシッと締まっています。
これなら、決して4430が買えない代用で選ぶのではなく、「これが欲しい」と心底思って買える。
心臓がドキドキ高鳴ってきました。

このスピーカが欲しい。生涯の仕事と一念発起した覚悟の証に、このスピーカを買おう。
ちょうどその頃、先生からも、「自分にとってのリファレンスになるスピーカを選んでおくと仕事が楽になるぞ。最高である必要はない。業務用として求められる一定のクオリティを満たしていれば、あとは好みで構わない。それが自分の耳の物差しになるまで聴き込んで聴き込んで聴き倒すんだ。」と言われたことも影響しています。

値段は一発25万円。左右で50万円。4430の半分です。
それでも20才の若造には大金です。清水の舞台から後ろ向きに飛び込むような思いの買い物です。
母に土下座して借金して、ラジオ局で必死で働いて毎月母に返済して、数年掛かりで完済しました。
母のありがたいところは、そのお金を全部貯金していて手を付けずにいた、ということを、その後十数年経て知ることになるのですが。

6畳間に4425を2発置くと、あとはもう何も出来ません。部屋の隅に机を置いて、スピーカの間に寝るような有様です。
それでも、とても幸せでした。

2010年現在でも、4425は一部で高い評価を得て現役で使われています。
特に吹奏楽、自衛隊の吹奏楽団の録音スタジオでは、「この4425が一番いい。4430よりも他のスピーカよりもこれがいい」とおっしゃる方がいて、今でも現役だそうです。
そりゃあ、4425でブラスの演奏をパァーンと鳴らしたら、他のスピーカは聴けませんわね。

その後、引っ越しの度にバイラジアルホーンに傷を付けまいとヒヤヒヤしながら、今日まで付き合ってきました。
現在住んでいる御徒町の家は、オフィス街のオフィスビルのテッペンなので、夜になると街が無人になり、大音量で心置きなく4425に吠えさせてやることができます。
ハイは自然で心地よく、当時登場してきたJBLやEVなどのホーンは、ハイをキツくなく聴かせると同時に定位間の良さも得られています。
低域は十分な迫力と同時に歯切れ良さと締まりも併せ持ち、4430よりもモニタリングに向いている音です。
仕事で音素材作りをする時のモニタースピーカとして使う以外に、主に映画のDVDや、ロック、ジャズ(特にビッグバンド)を聴く時に4425を楽しんでします。

元来がモニタースピーカですから、「音を美しく聴かせる」スピーカではありません。
仕事の粗探しをするためのスピーカです。だからこそ仕事の役に立つのですが、聴いていて疲れるのもモニタースピーカの宿命です。
「さあ聴くぞ」という気力がなければ聴くのがキツくなります。
写真で4425の上に乗っているのがCanonのスピーカ、S-50です。
これについては別途、愛機シリーズの記事で採り上げようと思ってますが、これもすごくいいスピーカです。
かつてNHKのMAスタジオでサラウンド用に採用されたことのあるスピーカですが、これをイージーリスニング用に使っています。
音を肩こらずに聴くにはS-50はとてもいいです。

職場でのモニタースピーカは、Jenelecだったり、MeyerのHD-1だったり、Dynaaudioだったりしますが、これらの音で仕事をする時も、自分の中でJBL4425が耳の物差しとして確立していることが、絶大な支えになっています。

JBL4425はその後、JBL4425MkUというのが出て、バイラジアルホーンがちっちゃくなり、私の個人的主観ですが、なんだかバランスの悪い外観になりました。
多分、コンシューマでの売れ行きを考慮して、バイラジアルホーンをおとなしく小さめにして、リビングルームに持ち込み易くしようと考えたんだと思われます。だったらコンシューマ用として別途開発すればいいのに。やはり「スタジオモニター」という立ち位置が売れるんでしょうか。結果として中途半端な外観と音質になってしまったと感じます。

現在は4428という型番から3WAYになっていて、続いて4429と続き、4425という型番は消滅しています。
4428や4429はホーンの上にスーパーツィータがついていて、デジタル時代に対応するべく数値上の再生周波数帯域を伸ばしマニアに訴求しようとしたらしく、もはやプロ用モニタースピーカとは呼べません。実際、現場で使われてもいません。
再生周波数帯域が伸びていれば音がよい訳でもなく、ホーンは高域のロールオフがどうとかいうマニアな方もいらっしゃいますが、人間の耳だって、「耳の穴」という筒の奥に「鼓膜」という無指向性マイクがついてるって代物ですよ。「耳たぶ」という反射板を指で前方に立てて聴いてご覧なさい。いきなりハイが良く聴こえてきますから。

スタジオモニタースピーカは仕事のためのスピーカで、決してリビングで音を楽しむためのものではないと思います。先にも書きましたが、聴いていて疲れます。耳が仕事中の耳になってしまいます。
まあ、スピーカに限らず、調理器具やカバンなども「業務用」「プロ用」というのがもてはやされますが、そういうのはどうもいかがなものかと思いますが。家庭のリビングにはそれ向きに特化されたスピーカの方が良いと思いますが。

私はマニアではないし、決してマニアになろうとは思いませんので、これ以上は申しませんが、初代4425は、プロが良いスピーカだと認めたスピーカだ、とだけ申し上げておきましょう。

つまり、JBL4425は後継機種のない、代えが効かないスピーカになってしまったのです。

私にとっての救世主はヒビノの水村さん。私の音響業界の仕事仲間として15年以上の長いお付き合いの方です。
ヒビノはPA系を中心とした業務用JBLを取り扱いしていて、私の4425をかねてから気にしてくれていました。4425のウーハーユニットはエッジがウレタンで、リコーンをしなければ長くもちません。
2010年、私の4425はリコーンを行い、生まれ変わって家に帰ってきました。
水村さんをはじめ、仕事の仲間が私の自宅に集まってくれて、お祝いの試聴会(飲み会)を開きました。
ソースによっては高域に時代(古さ)を感じますが、ロック、ジャズ、私が録ったオーケストラのライヴレコーディングは、その空気感、ブラスの息づかい、ベースや打楽器の骨太さが相変わらず素晴らしく、聴いていてワクワクドキドキします。
特に映画のDVDは、「映画館と同じ音がするね」と、映画館のチューニングエンジニアが言いました。
「やっぱりコンプレッションドライバーにホーンを付けた音はいいね、直球の音だ」と誰かが言いました。
水村さんから、「ツィーターの状態はいいし、アッテネーターにもガリは出ていません。大事になさってるんですね」と言われた時には、胸がクシュンとなりました。
大事にしてきたのは、冒頭に述べた、購入にあたっての動機が動機だったからで、またそれを助けてくれた母の愛情あってのことだからです。

これからもずっと、JBL4425は私の相棒として傍らにいてくれるでしょう。修理を繰り返しながら。
間違いなく私が死ぬまで。
私が死んだら、JBL4425を墓石代わりにしてくれ、と言い残そうかと思っています。
これは私にとって、単なるスピーカではなく、人生の岐路のゼロ標識であり、母の愛情のオベリスクであり、あの頃の自分の志に今の自分は応えられているかと自問する鏡だからです。


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