空間を録る・SRする
〜B&KマイクロフォンDPA4060〜

写真 写真

・はじめに

今回のレポートは、B&Kの新しいコンタクトマイクだが、これについて語ると、現在のSRの抱える問題や、SRの別の角度からのアプローチの提案、といった、えらく大上段に振りかぶった話になってしまう。

しかし、この新製品がそれだけの魅力と可能性を秘めている、ということを、同時に示唆している思う。

試用レポートに入る前にお話ししておかなければならない。

型番のDPAとは、B&K社よりプロ用音響ブランドとして設立されたDanish Pro Audio社の略である。日本では松下インターテクノ株式会社が輸入代理店となる。

DPAは、プロの現場にリサーチをかけ、現場で欲しがっている製品を、欲しがっているように作ろう、ということで、その第1号がこのコンタクトマイク、というところが、確かに現場をちゃんとリサーチしてるんだな、というころを実感させる。

・私とB&K

私がB&Kのマイクと、キチンとおつきあいを始めたのは、クラシックのコンサートホールでのこと。多くのホールが、録音の現状やホールの特性を考慮せずに、ノイマンの69が判で押したように納品されているものだが、それでも、心ある音響さんのいるホールでは、なんとかそのホールに合ったいいものを探そうと、いろいろ試行錯誤を繰り返されている。

クラシックの録音について私はいろいろ意見を言えるほど経験を積んでいないが、聞かせて頂いた話によると、林の様にマイクを立てるばかりではなく、ワンポイントで収録する方がいい結果が出せることも多いとのこと。自然さ、リアルさから言えば、ワンポイントにはかなわない。特に、ライヴ録音であることを強調するならば、その演奏がそのホールでどう響いて、その響きをともなってお客様の耳に届くのか、という録音になるので、ワンポイントはまさに「ありのまま」という録音方法である。

そのホールは、フィリップスのオノ・スコルツェ方式を採用していた。

オノ・スコルツェ方式に関しては、有名なので今更ここで御紹介するまでもないが、同じオノ・スコルツェ方式でも、使用するマイクによって得られる結果は全く違う。

このホールではB&Kの4006を採用している。

前置きが長くなったが、これが私とB&Kのマイクとの出会いである。

まず驚かされたのはその音のナチュラルさである。そして特筆すべきは、オフマイク状態での音質の劣化(特に低域の減衰)が、マイクを吊り込んでかなり高い位置まで飛ばしても、殆どみられなかったということである。

音がナチュラル。音がありのまま。

B&Kのマイクを一言で説明すると、そういうことになる。

そのB&Kが、コンタクトマイク、ミュージカルやコンサートでは最早必需品になっているコンタクトマイクを出したという。

この分野は今まで、SONYの ECM77か、ゼンハイザーが定番とされてきた。

それさえ使っていれば問題なし、という意識が現場に出来てしまっている。

そこへB&Kが殴り込んで来たのだ。楽しみではないか。

定番、独占、という状態はあまり健康的ではない。常に競い合う方が、正しい進歩をし、そのスピードも速くなる。

運良く、このDPA4060(以降、4060と表記する)を試してみたい、と思う公演が飛び込んできたので、音響特機の三輪さんの御好意で、お借りすることになった。

三輪さん、どうも有り難うございます。

プロフィール

DPA4060は、無指向性で、本体には低域の特性が若干変化する、2種類のウインドスクリーンが付属している。定価は4万円。

色は白、黒、ベージュ。ケーブルまでもがマット仕上のツヤ消し加工されているところが、さすが現場のリサーチが行き届いていることを物語る。

ケーブルはかなり長い。着身で使用すると随分余る。まあ、足りないと困るが余る分には問題ない。

このケーブルは硬めにできている。ちっとやそっとの折り曲げでは、まず断線は起こらない。ここも、現場のリサーチの結果か。

コネクタ部はアタッチメント式で、キヤノンコネクタや、各社のワイヤレスマイクの送信機に対応するコネクタが一揃いラインナップしている。

公演に応じて、有線での楽器用、仕込み用、ワイヤレス用と、アタッチメントを交換することで自在に使えるのが有り難い。

B&Kというと、高価なマイクというイメージが先行するが、他社の製品と比較しても、えらい高価だ、というほどでもないだろう。

公演

てっきりミュージカル公演の出演者用着身マイクだと思われた方も多いだろう。

もちろん、この4060には、各社のワイヤレスマイクの送信機のマイクコネクタに対応するアタッチメントが揃っているので、簡単に使用可能だ。

現に、帝劇のミュージカル「レ・ミゼラブル」で使用されている。

だが今回は、この4060の性能をもっと如実に見せ付けてくれる使い方をしてみた。

図は、ミュージカル公演の舞台図である。舞台前に生演奏のスペースがある。

いわゆるロックやポップスのバンドではなく、ピアノ、バイオリン、ウッドベース、キーボード、ドラムス、ラテンパーカッション、ホルン、トロンボーン、フルートという構成である。アコースティックのバンドである。

舞台の高さは60センチに満たない。低い舞台である。その状態で舞台前にバンドスペースがあるから、マイクスタンドは使って欲しくない、という演出サイドの要望である。非常に舞台が見づらくなると同時に、舞台の上のストーリーの世界の手前に、気持ちを現実に引き戻すようなものがあって欲しくないとのこと。

バンドは、音楽を演奏すると同時に、バンドという役を演じている、という設定になっていた。

確かにマイクスタンドがあると一気に興ざめする、ということは私も舞台監督から舞台装置のミニチュア模型を稽古場で見せてもらって、すぐに納得がいった。

言われなくてもこちらからマイクやマイクスタンドの存在は消したい、と申し出ただろう。

SRをせずに生で行く、ということも同時に考えた。生演奏は、出来るかぎり生で聴いてもらうのにこしたことはない。

しかし、演出からの要望と、上演会場の響きのクセの事情から、SRの必要が出てきた。

そこで、4060の登場となる。大胆にも舞台前、バンドスペースの上に、天井から2本、吊るし下げた。

楽器の中で一番高い位置はバイオリンの立ち演奏。その位置から70センチ上空まで下ろしてきた。

マイクヘッドとケーブルは艶消しのベージュ。吊り下げたとき、黒よりも目立たない。実際に他社の黒いコンタクトマイクも吊り下げて聴き比べたときに、目立ち具合が全然違うことに気が付いたのだ。これは、客電と作業灯がついている状態でのこと。このマイクは、開演前や休憩時の客電状態でも全然気にならない。

本番時は、照明さんが、通常は真上から当てるバンド明りを、少し斜めから、マイクケーブルをよけてバンドに当ててくれたので、目立つのでは、お客様が気になるのでは、という危惧は吹き飛んだ。こちらからお願いする前に、私と演出家との4060に関するやりとりを聞いていて、何も言わずに気を回してそこまでしてくれた照明さんに感謝。

2本の4060は、バンドスペースのエリアをきれいに均等に拾い、ありのままにSRさせてくれた。楽器の音を収音するのではなく、バンドスペースという、エリアそのものを収音するという方法をとった。これは私が常々、特にアコースティックのバンドに関しては、これが本来のスタンスなのではないか、と思ってきたことである。

ここで特筆すべきは、4060が、B&Kのマイクについて私が抱いてきた印象、つまり前述の「ありのままを収録するナチュラルさ」と「オフマイク状態での自然さ、リアルさ」を、コンタクトマイクになっても、その威力を変わらずに見せつけてくれたことである。

この驚きは大きい。そしてこのマイクプランは、他のマイクでは実現できなかったことである。他社のマイクも吊り込んでの聴き比べも行ったが、いつも聴き慣れた、コンタクトマイク特有の硬く、低い音域が音楽にならない音で、オフマイクになると予想どおりにカリンカリンのマイク臭い、一番いけない音になっている。予想どおりの音であり、これが故に従来は、こういうマイクプランが実現できなかったのである。

仕込み図

コンマスとの会話

G・Pが終わり、初日の本番までの休憩時間に、コンマスでもあるこの公演の作曲・編曲者と話をし、バンドに演奏してもらいながらコンマスに自分のパートの演奏を休んで客席でSRされた音を聴いてもらうことが出来た。

コンマスの談話。

「これはいいよね。こういうSRをしてもらうっていうのは、演奏側にとっては、大変ありがたいことだし、同時に怖いことだね。」

怖いとは、どういうこと?

「今まで、演奏者と音響さんの間には、大きな溝と、不信感、嫌悪、軽蔑のようなものが、横たわってたじゃない。音響さんで、イコライジングやエコー、リバーヴとかの設定なんかを自分の部下にも教えないで「これが俺の音だ」って豪語するような連中が、音響さんの中で今いっぱいいるでしょう。バカぬかせって。そりゃ演奏者の音であり、その機械の音でしょ。あんたの音じゃないでしょ。

モニタはとにかく演奏者の機嫌損ねないようにハイハイって言うこときいて作ってあげて頭下げといて、表に出る音はこっちのもんだ、っていう音響さん。多いでしょ。

知ってんだよ。こっちだって。長いからね。

演奏者側も悪い。「こっちが一生懸命演奏して出した音を、あいつら勝手にいじくって、ほんとの演奏の音とは似ても似つかぬものにしちまう。何の権利があってそんなことするんだ。」って怒ってるんだが、口にしないで腹の中で軽蔑してるってのが陰険だね。おまけに、ひどい演奏をしても、客席にいた知り合いやプロデューサーなんかからそれを指摘されると、「音響サイドの問題じゃないですかねえ」と、音響さんに濡れ衣着せるやつもいる。

双方共に問題があって、互いにその問題について話を切り出さず、表っ面だけニコニコと平和にやってきた。いかんよね、それじゃ。

今回のこのSRだと、通常の、楽器一つ一つの音を音響さんが拾って、独断と偏見でまとめて勝手に形を作って出しちゃう、っていうのとは、まるっきり正反対だ。

そのエリア、フィールドをSRしてる。そのSRされたフィールドの中で、俺達を自由に遊ばせて、プレイさせてくれる。

そのかわりそれは、我々も逃げ場がない、ひどい演奏はそのままSRされますよ、ということだ。濡れ衣も着せられない。こちらで問題があったときに、自分たちで踏ん張らずに、音響さんに、そっちでうまいことやってSRしてよ、っていうのが出来なくなる。

これでいいんじゃないの。なんか、とっても自然な、あるがまま、というか、あるべき姿、って気がするなあ。

何より、このマイクプランをきっかけに、あなたと、ここまでこういう話が出来る、っていうのが、一番大事なことで、大きな収穫なんじゃないのかなあ。」

岡田さんとの会話

このコンマスとの会話は、後日、音響特機へマイクをお返しにお伺いした時に、お忙しいお時間を割いてお話しさせて頂いた、三輪さん、岡田さんとの話の中にも、共通するものが出てきた。

岡田さんも現場に携わっておられたころ、そういう、音響さんと演奏者との、独特の空気については認識されていて、それを払拭しようと、いろいろと御努力なされたそうである。

その試行錯誤の中で、やはり「演奏エリアをあるがままに収音してSRする」というのが、演奏する側とその音を受けてSRする側との関係においても、音楽そのものに対峙する時のスタンスにしても、そのやり方が公演形態や舞台の形状や諸事情を鑑みても可能であるとなった場合、有効で望ましい方法ではないか、というお話を聞かせて頂いた。大変嬉しく、勇気づけられました。

次は、役者の着身マイクに使ってみたい。でもその次にはまたきっと、楽器のため、生演奏のため、歌のために使いそうだ。

今回の試用にあたりましては、音響特機の三輪さん、広田さん、松下インターテクノの岩本さん、シーティーエヌの南さん、皆さまの御好意を頂きました。

どうも有り難うございました。

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