バレエ公演「白鳥の湖」レポート

とにかくこの私が生オケじゃないバレエ公演を手掛けるなんて青天霹靂でした。

場所は神奈川県川崎市、小田急線新百合ヶ丘駅の目の前にある、川崎市麻生市民館。打ち合わせで初手からカマされました。
「うちは、部外者は音響室の立ち入りは禁止しておりますので、オペは客席か舞台袖でお願いします。」
公演の音響担当者が部外者だってんなら、一体誰が関係者だっていうんだ!言ってみろ川崎市!
そんなことやってっから公共ホールの評判が悪くなるんだよ!

私は基本的に、客席にブースを作るのが好きではないのです。
いくら生音でオペをするのが理想と言っても、お客様はそんなこと「知ったこっちゃない」ということを、音響さんは忘れてはなりません。

そのへんについては、このホームページの「KOUICHI ISHIMARU」の中の、「音話屋ダイアリー」のエッセイで、何回となくお話しさせて頂いているので、そちらもお読み下さい。

音を出して、客席でこのくらいで聞こえる音が音響室ではこのように聞こえる、という、「耳の物差し」を15分くらいで作って、あとはそれに併せてオペをする、リハの時には客席に相方を置いといて微調整を指示してもらう、ということをして、なるべく客席にブースは作らない、と私は修行時代に叩き込まれてきました。

今回はバレエなので、舞台袖は踊り手が走り込んできますから袖にブースなんて作れません。

演出の先生からも「正面から見て下さい」と頼まれている以上、今回ばかりは客席にブースを作らざるを得ないじゃないですか。

という訳で、客席ブースでブンむくれている私の図。

出来るかぎりブースをコンパクトに収めようと苦心は致しました。
さて。もう一つの苦心はスピーカです。
本来バレエはオーケストラピットで生オーケストラが演奏をします。
当然音は、舞台面と同じか少し下から聞こえてくる訳ですね。
日本のオーケストラピットは狭く深いものが多いので、ピットから真上へ向かって出た音がプロセニアムに反射して、音が上から降ってくる様に聞こえるケースが多いのですが、オーケストラピットの本来の形であるヨーロッパでは、ピットは広く浅いのです。ですから音はピットから放射状に客席へ広がります。
これをスピーカ再生においても表現しなければなりません。「
定位の再生」ということです。

今回のホールは、移動スピーカがなく、カラムスピーカも使用に耐えうる物ではありませんでした。
ですから、プロセだけ借りて、カラムスピーカは持ち込みとしました。
ディレイをかけて音像を下げて、というのは勿論のこと、舞台面のカラムスピーカについては、2Wayホーンで、ホーンの指向角度が広く、しかも指向性がキツイものを選びました。
チャイコフスキーの曲は「白鳥の湖」に限らず、
金管が美しく勇壮にパアーンと鳴るが決メ決メなので、2Wayホーンという選択です。
このホールは響きがライヴなので、指向性がキツイことによるデメリットはホールの残響によって相殺され、ホーンの指向角度の広さと指向性のキツさのメリットのみが出ます。その結果、ほんの少々の首振りの調整だけで、オーケストラピットから場内に拡散していく「定位の再生」が実現出来ました。

選択したのは、エレクトロボイスのSX500。新製品、出たてのホヤホヤ!ホントはこれと同じ筐体のサブウーファーが近日発売になるということだったので、それを組み合わせたかったのですが、まだ日本に入ってきていない、発売予定も決まっていないとのこと。そこで、同じエレクトロボイスのT18というサブウーファーを、組み合わせました。
今回の公演に関しては、EVIオーディオジャパンさんにはえらいお世話になりました。
池田さん、中村君、どうも有り難うございました。

え〜、SX?どうなのよ音質は?」という声もありますが、はっきり言って、スピーカの選択で音が決まってしまうなんて、音響さんとして恥ずかしいじゃありませんか。
どんなスピーカでも、私が出せば私の音になる。それが音屋の心意気。
ですから前述の通り、私が気にしたのはホーンの指向特性だけで、音質についてはきっと聞いた人が、「へ〜、SXって、アコースティックやオーケストラのSRもこんなに得意とするんだねえ。」
と思うような音作りをしました。ですから今回の公演を聞いて、「SXはアコースティックやオーケストラもイケるよ」と思って購入されても、あの音は出ません。あれは私の音です。
おまけに今回は、完パケと完パケの間に、舞台袖で弾くグランドピアノのソロの曲が2曲もあって、完パケとのトータルバランスは作らにゃアカンし、嗚呼それなのにまともなマイクが一本もない始末。

周辺機器も殆どありませんでした。そんな状態でも、本番中、休憩時間に西村勝行先生という、ミュージカルなどの作曲・編曲で有名な先生が、「あのピアノ、録音?いい音だねえ。マイク何?ショップス?」と訊いて来たくらいに仕上げました。

へっへー。ブッツケの生SR、しかもダイナミックマイクシュアーの58ベイヤーのM88だよーん。それでもそれだけの音に仕上げちゃうのさー。

私のロシア人の友人の中に、レニングラード国立バレエ団のソリストが二人います。

二人は同時に、同バレエ団付属の、ワガノワバレエ学校の先生でもあります。

レニングラード国立バレエ団は、そのレベルも世界最高水準で、特にコール・ド・バレエ(群舞)は世界最高峰と言われています。レニングラードを見ると、他のどのバレエもバラバラに見えます。
それでいて、このバレエ団の本質は技術ではなく、あくまでもエモーショナルな演出です。


昭和音楽芸術学院バレエ科

白鳥の湖に関して言えば、レニングラードは、チャイコフスキー初演のオリジナル演出を復活させて、それに現代の感性をアレンジして上演したりもします。

バレエに定番なんてない。踊り手の数だけ、演出家の数だけスワンがある。どんなスワンを演じるのか(踊るのか、ではない)。大切なのはそれだけだ。あとは自由だ。
彼らのこの言葉が、稽古期間そして本番を通して私を支えてくれました。
セルゲイ・メルクーロフ、リュドミーラ・ポレンスカヤに心から感謝いたします。

そして最後に。
笠井玲子さん、どうもありがとう。お疲れ様でした。
白石安紀さん、どうもありがとう。貴女がいてくれたからこの公演が成功しました。

・写真館・

Swan Lake 第三幕(ロイヤル版)

稽古風景

本番、卓まわり

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